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【MDD】MDD Diary 2017 #16 (2017/10/21)

2017-10-21

【メディカルデバイスデザインコース】
 いよいよレギュラープログラム最終日となりました。第16日目は『医療機器開発の実践4』です。朝日インテック(株) 西内誠 先生から血管内治療用医療機器開発現場の挑戦について、本学医学系研究科感覚機能形成学教室 神田寛行 先生からは人工網膜の研究開発について、そして(株) ハート・オーガナイゼーション菅原俊子 先生から「医師の経験を共有する」ソフトウェアe-casebookの開発事例について、(株)IFG 森和美 先生からは磁気刺激装置Pathleaderの開発経緯とその後について、(株)イメージワン 岡庭貴志 先生からはモバイル心電計durantaの開発を通じて得た教訓についてご講義いただきました。
 プログラム終了後は、カルビー(株) 松本晃先生をお招きして、特別企画 『MDD2017ファイアサイドセミナー』を開催いたしました。




 ニーズの探索と明確化が重要、臨床現場のニーズを集めろとよく言われるが、そもそもNeedsとは何か、Wantsと同じか?顕在ニーズだけではなく、潜在ニーズはないか、そして、それをもとに、開発コンセプトをいかに固めるか、についてお話いただきました。製品の具現化を行うには、臨床現場の要求、ともすれば曖昧な情報を、具体的に判定できるDesign Inputにどう落とし込むか、すなわち、感性を工学的言葉に置き換える作業が必要になります。このためには、医療現場の言語を理解することが必要になります。実はこのコースの中核テーマのひとつでもあります。また、開発を進める上で、臨床側と開発側が共有できる評価系が必要ですが、一方で実験室での評価には限界があり、最終的には臨床現場での評価が必要であるということもご講義いただきました。


 STS方式を用いた人工網膜開発についてお話いただきました。講義の中で何度も出てきた臨床現場の言語をいかに理解するかが重要というのは、1限目の西内先生のお話とも通ずる部分がありました。プロジェクトスタート当時、人工内耳や、心臓ペースメーカーなど体内埋植型の医用電子機器を製造する会社はあったが、日本国内には皆無だったため、部品から自分たちで開発・製造する必要があったというお話は、埋込型機器の国内での開発がいかに大変であるかが伺われます。また、埋込型機器となると、通常の医療機器以上にさまざまな試験を行って安全性を確かめる必要がありますが、これらの試験機器の開発も並行して行う必要があったというお話がありました。開発期間が非常に長く、なかなか開発投資を回収することが難しいカテゴリーに敢えて挑戦するのは創業者の思いでもあるとのことですが、日本における埋込型医療機器の領域で最初の灯をつけたいという執念が感じられる講義でした。特に最後のフレーズがすべてを物語っていたと思います。『諦めずに一歩ずつ前に進むことが大切。なぜなら、患者さんが待っているから。』


 医師の経験を共有するソフトウェアe-casebookの事例についてご紹介いただきました。学会事務局の運営業務を行う中、多くの医師が医療情報を安全に共有できるサービスが必要という潜在ニーズに気付き、開発を始められたということをご説明いただきました。マーケティング出身ということで、顧客ニーズ探索について、Go or Not Goの判断をどのように決めているかについてもご紹介いただきました。また、このソフトウェアを医療機器とするプランもあったとのことですが、診断を目的としているわけではないため、プログラム医療機器とするよりも、非医療機器の方が柔軟性のあるサービスを行うことができるという判断に至った経緯についてもお話いただきました。ネットワークビジネスは収益化モデルが話題になりますが、今回はどのようにマネタイズしていくかの戦略についても一部お話いただきました。


 脳卒中後の後遺症で障害を負った患者さんに対する新たなリハビリテーションとして、末梢神経の刺激による手法の研究が進められています。この研究結果を元に、痛みや不快感が少ない形で末梢神経の刺激を行う磁気刺激装置Pathleader(パスリーダー)を開発した経緯についてご紹介いただきました。コンサルティングの方々から製造販売の業許可を取得するのは不可能と言われながら、自力で業許可の取得を行い、今回の機器の認証を達成されるまでのプロセスについてお話いただきました。製品化フェーズでは公的資金がなかなかでない現状がありますが、金融業界出身を生かし、ご自身で金融機関と交渉を行い、開発を継続されてこられたまさしくビジネスの現場がよくわかりました。


 モバイル心電計durantaの開発事例と、開発を通じて得た教訓についてご講義いただきました。医療機器開発は全て患者さんのためであり、製品を安定的に供給できない企業は無責任である、アイデア自体に市場価値はゼロで、作って、広めて、稼いでこそ、安定供給が可能になるというお話しをいただきました。そのためには、最初の前提をじっくり考えることが重要です。患者数、使用頻度、保険、費用対効果からマーケットサイズを割り出し、機能、デザイン、ユーザビリティから競合品との差別化ができているか、そして、宣伝力などを加味しマーケットシェアを分析しなければなりません。今回の製品開発を通じて、次の開発の際には何をどのように進めるかというビジョンの立て方についてもご教示いただきました。

 プログラム終了後は、カルビー(株) 松本晃先生をお招きして、特別企画 『MDD2017ファイアサイドセミナー』を開催いたしました。テーマは『The Future is Bright!〜日本から世界に通用する医療機器を出すために必要なビジネス戦略〜』です。




 松本先生はご存じの通り、商社からスタートし、傘下の医療機器メーカーの建て直しを経て、医療機器業界世界No.1のジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社社長に就かれ、ご活躍されました。今回のセミナーでは、ご自身の歩み、経営とは、世界の医療機器産業、日本の医療機器産業、そして、医療機器ビジネス成功のための10のヒントについて、ご講義いただきました。『夢なき者に成功なし』というお言葉は、多くの受講生の皆様、そして講師の先生に深く刻み込まれたと思います。



 昨年度の受講生もお招きして、MDDイブニングネットワーキングが開催されました。松本先生をはじめ多くの講師の先生にもご出席いただきました。坂田泰史 国際医工情報センター長より、大阪会場、東京会場それぞれの代表の方に、MDDコース2017の修了証が手渡されました。




 皆様、延べ5ヶ月間お疲れ様でした。今年度は東北や九州から航空機や新幹線を利用して通学される方も多く、毎週の受講は大変な労力であったと思います。それぞれの所属組織、あるいは新しい形でご活躍されることを期待しております。今回のコースの内容のみならず、今後もMDDコース卒業生として、このネットワークを大いにご活用いただければと思います。MEIプロフェッショナルコース事務局では、いつでも皆様からのご連絡をお待ちしております。今後もさらにコースの内容を充実すべく努めてまいりますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。(運営事務局より)