講義題目・要旨

11月5日

1限目
2限目
講師 紀ノ岡 正博
題目 細胞特性,無菌操作,動作
要旨 細胞製造には,細胞の特性を理解したうえでのプロセス設計が必要である.
培養プロセスにおいて,細胞は足場に接着したのち,分裂を繰り返すことで増幅する.さらに,必要ならば分化,組織化などの機能性付与を経て再生医療等製品となる.その際,細胞は,不確定要素を有し,時間依存性,遅延性,等の特徴を有するため,従来の医薬品製造とは異なる考え方で,安定性を目指した細胞製造プロセスの構築が必要となる.さらに,気相,培養系の液相,固相の観点から環境の維持を行う必要があり,培養液の供給,増殖阻害物質の除去の観点から培地交換の意味,大量培養における酸素供給の意味などを鑑みたうえでの培養操作の確立をする必要がある.また,原料および製品である細胞は,滅菌処理を行うことが不可能である.よって,内在性のリスクを鑑みつつ,外因性の汚染リスクを排除し,無菌操作にて細胞製造を行う必要がある.
本講では,細胞培養の基本,培養中の細胞特性について示すとともに,プロセス設計に必要な考え方の理解促進と製品特性に及ぼす事例を紹介する.
3限目
4限目
講師 飛田 護邦
題目 再生医療等安全性確保法と医薬品医療機器法の概要
要旨  日本では、再生医療の一層の推進を目指し、2013年5月に再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律(平成25年法律第13号、以下「再生医療推進法」という。)が公布・施行され、2014年11月には、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第85号、以下「再生医療等安全性確保法」という。)と、薬事法等の一部を改正する法律(平成25年法律第84号、以下「改正薬事法」という。)が施行された。

 再生医療等安全性確保法は、再生医療等の迅速かつ安全な提供や普及の促進を図ることを目的としており、再生医療等を臨床研究や自由診療として行う場合は、再生医療等安全性確保法の対象となる。再生医療等安全性確保法は、医療機関が再生医療等を提供しようとするときに遵守しなければならない事項を定めたものであり、再生医療等安全性確保法の対象となる再生医療等は、医療のリスクに応じて第1種、第2種、第3種再生医療等技術に分類される。
 また、これまで制限されていた細胞培養加工の委受託が緩和され、再生医療等を提供しようとする医療機関は、国内外の企業等に細胞培養加工を委託できるようになった。

 一方、改正薬事法では、薬事法(昭和35年法律第145号)の名称が、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「医薬品医療機器法」という。)へと変更になるとともに、医薬品、医療機器の分類に加え、再生医療等製品が新設された。再生医療等製品には、ヒト又は動物の細胞加工製品として、体細胞加工製品、体性幹細胞加工製品、胚性幹細胞加工製品、人工多能性幹細胞加工製品や、遺伝子治療用製品として、プラスミドベクター製品、ウイルスベクター製品、遺伝子発現治療製品が含まれる。
 再生医療等製品の承認審査における特徴の一つとして、再生医療等製品の特性(不均一性)を勘案し、有効性が推定され、安全性が確認されれば、条件及び期限付きで特別に早期に承認できる仕組み(条件及び期限付承認制度)が導入されたことがあげられる。なお、条件及び期限付承認制度により承認された再生医療等製品は、承認後に有効性・安全性を改めて検証することが求められる。

 再生医療等安全性確保法及び医薬品医療機器法が施行され8年が経過し、この間に様々な成果と課題が明らかとなってきた。そこで、本講義では、再生医療等安全性確保法と医薬品医療機器法(再生医療等製品)の概説に加え、特定細胞加工物と再生医療等製品の位置付けの違い、再生医療等安全性確保法と薬機法の運用の違い、及び薬機法に基づいた細胞製品の研究・開発から設計・製造までの流れについて、私見を交えて紹介する。

11月12日

1限目
2限目
講師 江副 幸子
題目 再生医療における治療設計の考え方と実際
要旨 再生医療は、これまで有効な治療法のなかった様々な難治性疾患の治療において大きな期待が寄せられている。また、比較的副作用が少なく治療ができることがわかってきた。しかし、細胞種の選択や細胞数、その他規格について明確な基準を持たずに行われているのが現状である。適応疾患や、対象患者の状況を鑑み、それぞれの細胞の特性を生かしたより効果的な治療を計画する必要がある。
民間療法では、ともすると「これは、効くかもしれない」という思いつきで臨床への応用を試みる場合もあるかもしれないが、本来新規治療は、理論的根拠の上に、動物実験等でのPOCの確認があり、さらに非臨床試験、臨床研究、治験において安全性と有効性を確認したのちに初めて正規の標準的な治療となる。再生医療においては、原材料に大きなバリエーションはなく、データを共有できる部分が大きいと考えられる。手探りの中で始められている研究や治療ではあるが、いつまでも個々に手探りを続けていては発展は望めない。動物やヒトでのデータを共有し、標準化することで、効果と副作用を明確にし、確実に一般に受け入れられる治療に結びつけていく必要がある。
3限目 講師 中村 浩章
題目 細胞培養加工施設内の有害生物管理の基礎
要旨  細胞培養を伴う再生医療を環境面で担保していくためには、細胞培養加工施設の衛生管理は不可欠である。清浄度を管理する手段として空調システムによる微粒子、微生物の制御、および監視のための環境モニタリング技術は確立されている中で、昆虫(虫)という清浄度を脅かすリスクが至る所で発生し問題となっていることをご存知であろうか。
 昆虫といってもゴキブリやハエのような普段よく見かけるものではなく、体長1ミリ程度、場合によってはそれ以下の微小昆虫類と呼ばれるものが清浄度管理区域のみならず無菌操作等区域に於いても度々出現している。脚力の強い微小昆虫類は10Pa以上の陽圧にコントロールされたクリーンルームであっても容易に侵入することができ、微生物を体に付着させたまま室内を歩き回ることを想像すると有害生物管理(防虫防鼠管理)の重要性を感じ取れるのではないだろうか。
 ここでは細胞培養加工施設内で度々問題となる微小昆虫類の基本的な生態を理解していただき、対策へとつなげる知識を得て頂くことを目的としている。
4限目 講師 中村 浩章
題目 有害生物管理における予防管理と是正処置
要旨  細胞培養加工施設において有害生物を管理するためには具体的な管理プログラムを構築することを推奨している。
 医薬品製造に於いてはリスクマネジメントが主流となり、防虫防鼠に対してもサイエンスベースの管理が求められるようになってきているが、再生医療の分野に於いては浸透していなことが実状である。
 根拠づけられた有害生物管理プログラムを運用するためには、問題となる微小昆虫類の生態やリスクを考慮し、適切な予防管理と是正処置が必要となるため、昆虫モニタリングのデータ活用が不可欠となる。
 また、文書化された有害生物管理手順書も運用には欠かせない要件となることが予想されるため準備が必要である。
 ここでは有害生物管理プログラムに於ける予防管理構築ために、昆虫モニタリングデータを基にした管理基準値(アラート、アクション)の設定方法と逸脱時の対応について議論していくと共にネズミをはじめとする小動物への対策にまで踏み込み有害生物管理の重要性を説明する。

11月26日

1限目
2限目
講師 福田 一弘
題目 再生医療等製品の開発における留意点(1限 治験開始まで 2限 治験~承認申請)
要旨  近年、我が国においても新たな再生医療等製品の承認が続いており、再生医療等製品の実用化が着実に進んでいる。しかしながら、再生医療等製品は製品の特徴が多様であることに加え、承認事例はまだまだ限られているため、開発の進め方は依然として手探りの状態と言える。再生医療等製品の開発はケースバイケースと考えて当局との綿密な相談により進めていくことが必要である。
 再生医療等製品についての機構相談では、製品の品質(CMC)、非臨床安全性、臨床(試験計画、開発プラン)のすべての分野にわたって、それぞれ相談を行うことが事実上要求されている。加えて、遺伝子治療用製品ではカルタヘナ法への対応も要求される。そのため、再生医療等製品の開発においては、細胞/遺伝子/再生医療のサイエンスの理解に加え、複雑な薬事に関する知識も含めた総合的な理解が必要となる。本講義では、開発受託機関(CRO)の立場での経験を踏まえ、GLP及びGCPに配慮しつつ再生医療等製品を開発する上での留意点について解説したい。
3限目
4限目
講師 佐藤 陽治
題目 細胞加工製品(再生医療等製品)の品質・安全性評価の上での新しい考え方
要旨 iPS細胞の登場に代表される幹細胞学やバイオテクノロジーの進歩により、これまで治療が困難だった疾病や損傷の新たな治療法として、細胞加工製品(再生医療等製品)を用いた治療には大きな期待が寄せられています。しかし、安全性を確保しながら先端的な細胞加工製品を開発し、臨床で実用化することには、未知・未経験な要素が多く存在します。細胞加工製品の実用化の上での科学的な課題としては大きく分けて1) 原料の安全性と適格性、2) 製造の再現性と最終製品の品質確保、3) 前臨床段階での安全性・有効性の予測、および4) 臨床評価のあり方、が挙げられます。本講義では、特に上記1)に関する問題として「細胞基材としてのセル・バンクの樹立と管理のありかた」と、3) に関する問題として「造腫瘍性試験のデザインと解釈」を例に挙げ、細胞加工製品の品質・安全性を適切に評価するための基盤技術の開発、およびこれらの製品に特有の品質の考え方を紹介し、これまでにない特性をもった先端的医療製品に対し、従来の医薬品の品質・安全性の考え方をそのまま適用するのではなく、新たな品質評価技術や品質マネジメント法を開発することの重要性を議論したいと思います。

12月10日

1限目 講師 池松 靖人
題目 再生医療等製品の製造区域における環境モニタリングの意義と概要
要旨  再生医療等製品の製造施設や特定細胞加工物の細胞培養加工施設における環境モニタリングを念頭にして,再生医療等製品の無菌製造法指針や日本薬局方参考情報G4無菌医薬品製造区域の環境モニタリング法の一般要求事項,日常管理要求事項とPIC/S (EU) GMP Annex1 final(2022年8月発出)における汚染管理戦略(CCS)に資する環境モニタリングの最新の考え方を示し,再生医療等製品の製造区域での環境モニタリングを解説する.再生医療等製品の製造工程は一般無菌医薬品とは異なり,ヒトの介在作業が多く最終滅菌法などの無菌化処理ができないため,極めてリスクが高い状況下での製造を強いられている.また最終製品での無菌試験が検体量の限界や試験に要する時間の制限などで適用できない場合もあり,製造工程における微生物汚染の可能性を否定することが求められる.特に製造区域での交叉汚染は大きなリスクとなることから,環境モニタリングによる無菌操作等区域及び清浄度管理区域での微生物汚染状況の監視と予見が重要となる.
 ここでは環境モニタリングの基本的な運用と再生医療等製品を取り扱う施設における運用方法を考察し,環境モニタリングの重要性を再認識してもらい,各々の施設及び製品特性に応じた汚染管理戦略の策定・実施するために必要な考え方を得ることを目的とする.
2限目 講師 池松 靖人
題目 微生物迅速試験法の概論と汚染管理戦略(CCS)に資する活用方法
要旨  再生医療等製品は一般無菌医薬品と同様の微生物学的試験を適用することが難しく,また最終製品での無菌試験が検体量の限界や試験に要する時間の制限などで適用できない場合もあるなど,試験結果に時間を要する従来の培養法だけ微生物試験を実施するにはリスクが高い.これらを補完する新技術として微生物迅速試験法の様々な手法を活用することが求められている.
 特に再生医療等製品の製造区域における微生物管理は,交叉汚染の可能性を否定することが求められ,微生物学的汚染状況をタイムリーに監視することが重要である.無菌操作等区域でのヒトの介在が多い場合にはヒトが触れる空気,ものについても同様であるが従来の培養法ではタイムリーに監視できているとは言えず,微生物迅速試験法を活用することでタイムリーで継続的な監視と予見を行うことが可能となる.ここでは微生物迅速試験法の概論と第18改正日本薬局方参考情報「微生物迅速試験法」や再生医療等製品の無菌製造法指針「14.微生物迅速試験法」の解説を行い,特に前項で解説した汚染管理戦略(CCS)に資する環境モニタリングでの活用方法を紹介する.また微生物迅速試験法の検証事例を紹介し,実例での運用方法とケースバイケースでの対応が考察できるように示唆し,理解を深めることを目的とする.
3限目 講師 水谷 学
題目 再生医療等製品の製造施設における設計の考え方と適格性評価
要旨  一般的な医薬品の製造では、最終製品の精製および同定が可能であり、製造工程における操作手順の同一性はそれほど留意する必要は生じない。そのため製造施設の設計では、製品の無菌性保証を達成するための無菌操作環境の構築が何よりも大切な要件となる。このとき、開発時、治験時あるいは商用生産時で施設規模や操作手順が大きく異なることも多い。
 これに対して、再生医療等製品の製造では、最終製品の細胞における品質の同定が困難である。そのため同じ品質の製品であることを証明するには、操作手順の違いによる影響が生じていないことが重要な確認事項となる。再生医療等製品の製造施設設計では、生きた細胞の変化は止められないことを理解し、工数の管理を含め、開発時の操作手順との互換性が確保できるような設備レイアウトの考慮が不可欠となる。また作業者の熟練度による操作手順への影響にも留意が必要である。
 ここでは、再生医療等製品製造の特徴と、製造施設設計の進め方、および、施設の適格性評価についての理解を深めることを目的とする。
4限目 講師 水谷 学
題目 再生医療等製品製造における品質マネジメント体制の構築と施設の運用
要旨  再生医療等製品の製造方法は、生きた細胞を製品とするため、細胞への加工(培養)を行うことが特徴である。そのため再生医療等製品製造は、滅菌工程を有せず、原料から最終製品まで一貫した無菌操作を達成し、無菌医薬品製造と同等かそれ以上の無菌性保証が不可避の製造管理要件となる。一方で、再生医療等製品の製造工程は、一般的な医薬品などの製造とは運用の手順が大きく異なっている。
 再生医療等製品の製造工程が一般の医薬品製造と大きく異なることにより、無菌性保証を含む衛生管理など、製造施設の運用方法にも違いが生じる。同時に、再生医療等製品は対象疾患(製品仕様)ごとで多様性を有している。そのため施設の運用においては、品質リスクマネジメントに準じ、ケースバイケースで対応手順を構築することが求められている。
 ここでは、再生医療等製品を製造する施設の運用手順構築の考え方と、品質マネジメントシステム構築に向けた要件についての理解を深めることを目的とする。

12月17日

1限目
2限目
講師 鮫島 葉月
題目 細胞加工施設運用におけるリスクマネジメントの実際
要旨 細胞加工施設(CPF)において実運用を行う上では(どのような段階であれ)、製造する細胞加工物のリスクを分析し、リスクに基づいた工程や製造プロセスを設計することが求められる。そしてこの分析と評価にはCPF自体が持つリスクを適切に反映し紐付ける必要があると考えられる。CPF自体が持つリスクは、具体的には下記のような内容である。

ヒト:安定した培養工程が可能な人員数、教育訓練の有効性と人員の評価、管理者の実務負担など
モノ:製造のサスティナビリティ(施設寿命や改修工事の困難さ)、設備機器の経年劣化、解析ソフトや機器買い換え時の互換性の問題など
カネ:経年劣化によるコストアップ、人件費の上昇、急激な整備資材の高騰など

製造物に因らないこのような施設側のリスクは、しかし解消や低減が難しいことが手伝って対応が後手に回りがちであるのが運用上の実態である。本講義ではこれらリスクを整理し、具体的な対策やヘッジ方法を検討してみる。リスクはそれぞれの施設で差はあるが、検討の一助となれば幸いである。
3限目 講師 水野 満
題目 アカデミアにおける細胞調製施設運営の実例と課題(1) −細胞培養加工施設の運用の現状−
要旨  東京医科歯科大学医学部附属病院細胞治療センターは2002年に開設し、その後、2015年に大規模改修を経て新施設として開設した。本学では、特定細胞加工物製造届書の承認を受け(施設番号FC3150001)、特異的免疫細胞療法(臨床研究・第1種)、軟骨・半月板再生医療(臨床研究・第2種)、半月板再生医療(医師主導治験における原材料調製)を展開しており、今後も腸管再生(臨床研究・第2種)のfirst in humanの臨床研究も開始予定である。本学細胞治療センターは様々なPhaseの再生医療を提供する場として様々な経験をしてきた。旧施設での12年間、新施設での7年間を経て、本学では施設における多種多様な事例、不具合に遭遇しており、本発表ではその経験を概説する。
 これまで施設の設計、改修、環境モニタリング、定期バリデーション等にあたり、様々な問題点や課題、不具合事例に遭遇してきた。残念なことにこれらの事象は、施設間で共有されることはほとんどない。アカデミア視点で経験してきた本学での運用実態を中心とした様々な経験を紹介すると共に、細胞培養加工施設の運用の問題点を提示する。
4限目 講師 水野 満
題目 アカデミアにおける細胞調製施設運営の実例と課題(2) −基礎から臨床へ:間葉系幹細胞を用いた技術開発、迅速微生物検査システムの開発−
要旨  前半は、本学で実施してきた基礎研究から臨床研究、医師主導治験に至る経験を概説する。講演者の所属するチームでは、これまで整形外科膝疾患を対象とした技術開発を行ってきた。滑膜組織から分離した間葉系幹細胞を用い、基礎研究、非臨床研究、臨床研究(関節軟骨2008年〜、半月板2014年〜)、医師主導治験(半月板2017年〜)へとphaseを進めてきた。基礎から臨床、臨床研究から医師主導治験に至る際に生じた製造工程管理や品質管理に関わる諸課題を一つ一つ解決し、前進してきた過程について説明したい。
 後半は、本学で取り組んでいる検査系の開発状況について提示する。特定細胞加工物の提供における微生物検査は、迅速かつ低価格で、どの検査担当者も簡便に行える試験が望ましい。本学ではNAT法を用いた微生物検査法を開発し、臨床研究で実施してきた。しかし、高感度検出系であるが故に生じた課題などの経験について概説する。