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【MDD】MDD Diary 2017 #14 (2017/09/30)

2017-09-30

【メディカルデバイスデザインコース】
 第14日目は『医療機器開発の実践2』です。今回のテーマは『新たな価値の創造』です。マイクロソニック株式会社 松崎正史 先生からエコーのパラダイムシフトについて、医療機器センター附属医療機器産業研究所 高山修一 先生から内視鏡機器開発の歴史から将来の展望、そして、大阪工業大学 本田幸夫 先生からはNormalizationを支援するロボット介護機器の開発、大阪ガス株式会社 松波晴人 先生からは新たな価値を創る方法論としてのForesight Creationについてご講義いただきました。


 骨の中は超音波では見えないという常識を覆す研究に始まり、レントゲンやMRIのように、エコーでの乳がん検診も検査者の手技によらず一定の診断ができる形を目指して、半自動的に超音波画像データを取得するシステムを開発するなど、既存の超音波診断機器の発想と違った視点での開発事例についてご紹介いただきました。国が地域包括ケアシステムの確立を目指す中で、これまで病院が支えてきた医療の軸足が地域に移るという考え方のもと、『たくさんの高齢者に安価な医療を提供する』をコンセプトに機器開発を行うという考え方についてもお話いただきました。この実践例として、往診現場での体液管理を目的とし、あえて機能を絞り込むことで、普通のタブレットにプローブを装着すると超音波診断装置に変わるというシンプルさを実現したmiruco(ミルコ)のご紹介をしていただきました。まさしく、『その場でちょっと見たい』という現場のニーズを形にした機器です。講義ではシミュレーターを用いて、実際に機器操作を体験していただきました。


 胃がんを撲滅したいという共通の目標のために、医工連携で開発された内視鏡(胃カメラ)についてご講義いただきました。今では想像もつきませんが、なんと社内ベンチャーで開発が進められたということです。医師の目と手を体の中に運ぶ手段であるというコンセプトのもと、医師と技術者が手を組んで、少しでも患者さんに優しく、少しでも現場の医師が使いやすい機器を目指して一緒に開発してきた歴史がよくわかりました。技術開発を率いられる中で、試作にとどまったたくさんの事例についてもお話いただきました。しかしながら、こういった製品化には至らなかった開発過程から、製品化に至るものの基礎となる技術が発達したということが伺われました。医師とコミュニケーションできる医学知識、医師と共有できる目標、医師の要望を具現化できる技術力、そして10年以上利益がなくても続けるという努力が、世界に誇れる内視鏡を実現したということがよくわかりました。


 コンピューターやロボットにおける技術革新の可能性、これらの技術で高齢化をはじめとする、日本が抱える社会問題をどのように解決するかについてお話いただきました。安全なロボットとは何か、ここでもリスクマネージメントの話が登場しました。ISO13482 生活支援ロボットの安全規格、ISO12100機械類の安全性を確保するための国際標準規格についてもご紹介いただきましたが、基礎的な部分は医療機器の場合と同じであることがわかりました。現在国の事業などを中心に、ロボット介護機器における設計品質の確立についての基礎ができた状態ですが、今後はロボットを現場で使用することで、現場の負担が減り、普及するフェーズへの移行が必要であるというお話がありました。介護ロボットをビジネスとして考えるとRehabilitation (リハビリ)からNormalization(在宅)へのシフトを進め、「技術はあっても商売で負ける」という残念なパターンにならないよう、どのような戦略を立てていくのかが重要です。安心安全のキーワードは外せませんが、ハードルを上げすぎて開発やビジネス化が進まないという事態にならないよう、バランスが必要だということですね。


 日本のモノづくりの特徴のひとつとして、改善改良が得意という点があると思います。一方、医療機器の分野において、今後は世界にないものを日本で創ることが求められています。この講義では『ないところから新しい価値を創る』ことをキーワードに、Foresight Creation(=新たな価値を生むこと)についてご講義いただきました。効率的に最短距離で解を求めるリニア思考から、観察を通して得た気づきにより意外な真相=Insightをつきとめるリフレーム思考への転換、そして収束思考からさまざまなアイデアを生み出す発散思考への転換についてお話いただきました。Creativityとは異質なものを結びつけて新たな価値をつくる統合とリフレームであるという考え方、そして、顧客ニーズを理解し、潜在機会は何かを考えつつ、こういう世の中にしたいという強い意思が、イノベーションを目利きし評価する能力、すなわち「先見力」を生むということを、本田宗一郎やスティーブ・ジョブズの例を挙げてご説明いただきました。どのように新しい価値を発想し、それをどのように意思決定するかが、新しい医療機器を開発する肝になる訳ですね。

大阪会場のある中之島周辺は絶好の秋晴れでした。
コース開始から5ヶ月目に入り、朝晩は少し肌寒さを感じる季節となりました。
受講生の皆様におかれましては体調をくずされないようご自愛ください。




 次回10月14日は医工連携の事例、医療機器開発企業の資金調達と出口戦略、肝動脈化学塞栓療法、診療と研究の境界線・先進医療と治験の講義を予定しています。

 モジュール4医療機器開発の実践スケジュール