【MDD Diary 2025】#4 (2025/6/28)
2025-07-2
こんにちは。メディカルデバイスデザイン(MDD)コース2025運営チームです。6月28日(土)に開催された「Module 1 ~医療機器開発のための臨床医学~」の第4日目では、臨床の最前線で活躍される先生方から、専門領域と医療機器開発に関する貴重な講義をいきました。今回はその一日を振り返ります。

1限目 麻酔・集中治療と医療機器
榎谷 祐亮 先生
大阪大学医学部附属病院集中治療部
本講義では、手術において不可欠な麻酔および集中治療に関連する医療機器について、榎谷先生にご講義いただきました。麻酔の三要素は「鎮静・鎮痛・筋弛緩」であり、先生の「生きている状態からあえて遠ざけるのが麻酔科の仕事である」という言葉が非常に印象的でした。手術中の呼吸管理では、パルスオキシメーターのような非侵襲的モニターに加え、肺動脈カテーテルなどの侵襲的機器も使用されており、それぞれの特徴と目的についてご紹介いただきました。また集中治療における代表的な医療機器として、人工呼吸器や、新型コロナウイルス感染症で注目されたECMO(体外式膜型人工肺)などについても解説されました。さらに、人工呼吸器管理中の肺保護戦略として行われる腹臥位療法において、顔面保護のための専用枕など、現場で求められている実際のニーズについても紹介がありました。近年は、集中ケア中にもリハビリを実施するために高機能ベッドの導入が進められており、遠隔ICUの整備によって、過疎地域でも集中治療を提供できる仕組みが導入されつつあるとのことです。また、クリティカルケア領域における機械学習の研究動向についても、最新の論文事情を含めてご紹介いただきました。

2限目 救命救急と医療機器
舘野 丈太郎 先生
大阪大学大学院医学系研究科救急医学
ドラマなどで描かれることも多い救命救急の「リアル」について、舘野先生よりご講義いただきました。講義では、大阪大学医学部附属病院救命救急センターの施設構造や設備、および実際の症例動画を用いて、診療の流れを詳しくご紹介いただきました。陰圧閉鎖療法や頭部外傷に対する治療の様子など、普段はなかなか目にすることのできない臨床現場の映像は非常に貴重な学びとなりました。さらに、AI技術を活用した最先端の医療機器やシステム開発についてもご紹介いただきました。出血箇所を特定する画像診断支援システムや、急変リスクを事前に予測するシステム、さらには救急車の配備を最適化するアルゴリズムなど、救命救急の現場における課題解決に向けた先進的な取り組みが進められているとのことです。都道府県ごとのドクターヘリの導入台数はだとかという問いに対して、ドクターヘリの効果に関する科学的データがよりクリアになれば、導入台数についてもエビデンスに基づいた適正配置が可能になるという議論もありました。

3限目 小児外科の臨床現場と医療機器
田附 裕子 先生
大阪大学大学院医学系研究科外科学講座小児成育外科学
本講義では、小児に関わる外科領域を広くカバーする小児外科の特徴と現場の課題について、田附先生にご講義いただきました。小児は成人と異なり、体のサイズやバイタルサインの基準値が異なるほか、転落防止の柵がついたベッドなど、診療環境そのものにも特有の配慮が必要です。また、パルスオキシメーターのような標準的な医療機器でさえ、小児にはそのまま適用できない場合が多く、限られた機器で対応を強いられている実情が紹介されました。さらに、小児向けの国産医療機器が乏しく、多くを海外製品に頼っている点も大きな課題です。小児疾患は種類が非常に多岐にわたり、それぞれに適した機器を開発するには高度な専門性と多大なコストが求められます。一方で、個々の疾患に対応する患者数が少ないため、市場規模が小さく、採算を取るのが難しいという構造的な制約があります。医療機器全般において、もともと医薬品に比べて多品種・少量生産の傾向がありますが、小児外科領域はその中でも特に多様性が高く、極めて限られた数量での供給が求められる点が、開発や製造の大きなハードルとなっています。質疑応答では、「働き方改革の観点から、小児外科医の労働時間をどう緩和していけるか、期待されるイノベーションはあるか」という問いが投げかけられましたが、診療体制の集約化が鍵であり、それによって効率的な医療提供が可能になるかが問われているとのことでした。

4限目 脳神経外科領域の臨床と医療機器
押野 悟 先生
大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科学
発症後の迅速な対応と高い技術力が求められる脳神経外科領域において、デバイスの進歩とともに血管内治療は大きな進展を遂げています。講義では、最新の治療技術とその効果だけでなく、現場で直面する具体的な課題にも焦点が当てられました。たとえば、カテーテルが細すぎて視認しづらい、防護服が重く体への負担が大きい、術中にメガネがずれないようにする固定具が欲しいなど、実際の臨床現場で感じられているニーズが紹介されました。また、機能神経外科の分野では、脳深部刺激療法(DBS: Deep Brain Stimulation)によって振戦(ふるえ)が劇的に改善した患者の症例動画も提示され、非常に印象深く拝見しました。パーキンソン病における外科手術と薬物治療の適応の違いについて質問がありましたが、まずは薬物療法が第一選択であり、それでも症状が制御できない場合に外科的治療を検討するという説明があり、医薬品と医療機器双方で治療が行われることが理解できました。
次回からModule2〜医療機器開発のマネジメントが始まります。
初日は「医療機器開発のプロジェクトマネージメント 〜ニーズ探索・コンセプトデザイン・開発インプット〜」、「医療機器における承認・認証制度」、「ユーザビリティエンジニアリングとIEC 62366-1」、「医療機器における電気安全とEMC(電磁両立性)の実際」、「医療機器と生物学的安全性について」について学びます。
メディカルデバイスデザインコース2025運営チーム