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【MDD Diary 2025】#10 (2025/8/23)

2025-08-27

本日は「医療機器開発のための機器実習」第2日目でした。機器開発の歴史や仕組み、実物の医療機器を用いた実演を通じて、臨床現場での活用方法や最新技術の進歩について学びました。心電計や除細動器、腹膜透析機器など、診療に欠かせない多様な機器において、技術的な改良点や将来の展望について理解を深めることができました。



1限目 心電計と心電図

フクダ電子近畿販売株式会社

多くの医療現場で使用されている心電計について、心電図に関する基礎知識から測定方法まで幅広くご講義いただきました。心臓の構造に加え、12誘導心電図、モニター心電図、ホルター心電図といった多様な心電図の種類をご紹介いただき、それぞれの特徴や臨床での役割を学びました。さらに、心電図波形が示す意味や心拍数の計測方法についても丁寧にご教示いただきました。

実演では、12誘導心電図の装着手順を確認し、測定時に筋肉の電気信号が混入する場合や、電極の装着間違いによって波形がどのように変化するかを学ぶことができました。心電図で頻発する誤りの一つに「電極の着け間違い」がありますが、近年はこうした人為的ミスを減らすために自動解析技術が大きく進歩していることも印象的でした。さらに、携帯型心電計や小型心電図といった新しい機器の紹介もあり、利便性の向上を強く感じました。最後に、AIを活用することで、1枚の12誘導心電図から過去に心房細動が起こっていたかどうかを推定する最新の研究開発についても触れていただき、心電図技術の未来に大きな可能性を感じました。



2限目 除細動器・AED

日本光電工業株式会社

一般の方が使用する機会もある自動体外式除細動器(AED)についてご講義いただきました。AEDは心臓が完全に止まっている状態ではなく、心室細動など心臓が痙攣している状態に対して効果を発揮します。救命率を高めるためには「解析精度」と「解析時間の短縮」が重要であり、その両立を実現するために日々改良が重ねられていることを学びました。また、ノイズ低減パッドの開発など、より正確かつ迅速な解析に向けた技術的な進歩についてもご紹介いただきました。

実演では、AEDの基本的な操作手順について解説を受けました。開封方法からパッドの装着位置、心電図の自動解析、そして電気ショックに至るまでの一連の流れを確認することができました。続いて、医療従事者が使用する除細動器についても学び、AEDとの違いを理解しました。さらに、徐脈患者に対して電気的に心拍数を上げる「経皮ペーシング」についても紹介いただき、除細動器の幅広い機能を知ることができました。最後に、最新機種では電気ショックを自動で行うモデルも登場していることや、AEDはバッテリー残量が5%程度でも作動可能であることが質疑応答で示され、安心して活用できる点が印象的でした。



3限目 パルスオキシメーター・esCCO(非侵襲連続推定心拍出量)
日本光電工業株式会社

病院だけでなく家庭にも普及している「パルスオキシメーター」について、その開発の経緯や測定原理をご講義いただきました。パルスオキシメーターは1974年に同社の青柳卓雄先生によって発明された日本発の技術であり、「医療の究極の姿は、治療の自動制御である」という先生の言葉は、現代の医療従事者にとっても大きな示唆を与えるものです。従来のパルスオキシメーターは、体動や血圧測定中の駆血により測定不能となる課題がありましたが、近年の改良によって測定不可時間が大幅に短縮され、体動が多い場合や血圧測定中でも波形を安定して得られるようになっています。

実演では、実際の機器表示を確認したり、息止めテストでSpO₂の変動を観察することで、日常的に利用されている装置の仕組みを体感することができました。質疑応答では、「新しい機種では血圧測定をしても波形が通常通り取れるのはなぜか」という問いに対し、加圧方法の改良によって測定が可能になったことが解説されました。この点は、技術の進化がいかに臨床現場の利便性に直結しているかを実感させるものでした。さらに、心電図とパルスオキシメーターの測定データを組み合わせて、連続的に心拍出量を推定する新技術 esCCO(非侵襲連続推定心拍出量) についてもご紹介いただきました。採血や侵襲的操作を行うことなく心拍出量を把握できるこの技術は、救急医療や集中治療領域での活用が期待されます。最後に、青柳先生は既にご逝去されていますが、コロナ禍において世界中の患者を救った日本の技術の功績を改めて誇らしく感じました。



4限目 ポリソムノグラフィと持続的自動気道陽圧ユニット(CPAP)
フクダライフテック関西株式会社

睡眠障害や睡眠呼吸障害の確定診断に用いられる検査がポリソムノグラフィ(PSG)です。PSGでは脳波、眼球運動、筋電図などを測定し、睡眠段階や中途覚醒の有無を判定することができます。従来は多くのセンサーを装着する必要があり移動が困難でしたが、現在ではBluetoothを用いたデータ収集が可能となり、患者さんの負担が軽減されています。また、持続的自動気道陽圧(CPAP)は、睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)の治療に用いられる機器で、鼻マスクを通じて空気を送り込み、気道の閉塞を防ぐことで無呼吸・低呼吸・いびきを改善します。今回の講義では、旧型から新型への進化に伴い実現したワイヤレス化、クラウド化、軽量化、そしてデザインの発展についてもご紹介いただきました。

実演では、CPAPの装着方法や、実際にしばしば問題となる空気漏れの様子を確認できたほか、設定値の変更方法についても学びました。さらに、小型化したPSGについても装着方法や記録できる波形を知ることができ、自宅での使用可能性について理解を深めました。



5限目 ペースメーカー・ICD・CRTD・プログラマー

日本メドトロニック株式会社

埋め込み型心臓電気デバイス(Cardiac Implantable Electronic Devices:CIEDs)についてご講義いただきました。まず心臓の構造や心電図の成り立ちを学んだ後、CIEDsの適応となる徐脈性不整脈について確認しました。さらに、致死性心室性頻脈に対する治療機器である植込み型除細動器(ICD)の役割を、実際の波形を用いながら理解を深めました。続いて、ペースメーカーの歴史を同社の歩みとともにご紹介いただきました。世界初の電池式心臓ペースメーカーを開発・実装した同社は、黎明期には単純なペーシング機能のみであったものを、時代とともに患者の病態に合わせた調整が可能なデバイスへと進化させてきました。さらに、電気ショック機能を備えたICDや、心臓のポンプ機能を改善するCRT(心臓再同期療法)へと発展し、技術革新が加速度的に進んでいることを学びました。

実演では、最新の機器紹介に加え、Bluetoothによる状態把握や遠隔モニタリングシステムの活用について学びました。大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学の中野智彰先生からは、ペースメーカー留置に伴う感染リスクと、それに対処する経皮的心臓デバイス抜去術についてもご講義いただきました。特殊な機器を用いたリード抜去術の実際を知ることで、医療安全の観点からも重要な学びとなりました。さらに、心臓内に直接留置可能なリードレスペースメーカー「Micra」の紹介もありました。従来型より93%の小型化を実現し、従来のペースメーカー留置が困難だった患者にとって大きな選択肢となっています。質疑応答では、CIEDsからのBluetooth通信による人体への影響について質問がありましたが、複雑な暗号化技術により安全性が確保されており、現時点で人体に悪影響があるとの報告はないとのことでした。最先端の植込み型デバイスがもたらす未来の心臓治療の可能性を強く感じる講義となりました。



6限目

着用型自動除細動器(WCD)
旭化成ゾールメディカル株式会社

まず、中野先生よりICDの変遷についてご講義いただきました。心室頻拍や心室細動による心臓突然死のリスクが高い一方で、ICDの適応が未確定であったり、患者さんの状態により、すぐには植え込みが行えないケースも存在します。そのような患者に対して開発されたのが 着用型自動除細動器(WCD) です。WCDは 検出・治療・記録 の三つの機能を備え、致死性不整脈が発生した際に自動で介入できる装置です。特筆すべき点として、電気ショックを行う際に導通性を確保するためのジェル放出には火薬が用いられており、エアバッグと同じ原理で瞬時に作動する仕組みになっていることを学びました。

実演では、WCDの装着方法やアラーム音の確認を通して、その操作性を理解することができました。一見すると電極を背部や胸部に配置し、密着させる必要があるため窮屈な印象を受けましたが、実際に着用してみると圧迫感はほとんどなく、日常生活を妨げないよう工夫された設計であることがわかりました。さらに、不整脈疾患の分類や治療選択についても中野先生から追加講義があり、カテーテル治療の実際を含め幅広く学ぶことができました。WCDは、体内植込み型デバイスと補完的に位置づけられ、患者さんの安全を守るための重要な選択肢であることを実感しました。



7限目

腹膜透析(PD)機器:自動腹膜灌流装置と腹膜灌流用紫外線照射器
株式会社ヴァンティブ

腎代替療法として欠かせない透析についてご講義いただきました。腹膜透析とは、腹膜の物質透過性を利用して体内の老廃物を除去する治療法で、Peritoneal Dialysis(PD)と呼ばれています。冒頭では、日本におけるPDの割合が全透析患者のわずか3%にとどまっているという驚きの事実が示されました。血液透析(HD)と異なり在宅で行える点が特徴であり、方法としては夜間に一度自動的に行う自動腹膜透析(APD)と、1日に複数回手動で行う持続携行式腹膜透析(CAPD)があることを学びました。実演では、自動腹膜灌流装置「かぐや」を用いたAPDのセッティング手順を確認しました。さらに腹膜透析灌流用紫外線照射器「つなぐ」を組み合わせた在宅での透析場面を再現いただきました。すべての手順がディスプレイ表示と音声で案内され、プライミングや接続・切り離しといった作業をボタン一つで自動化できるため、誤使用や感染リスクが減り、在宅患者の不安や負担を大幅に軽減する設計であることを実感しました。

また、大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学の門田智香子先生からは、末期腎不全を対象とした治療選択肢としての透析と移植、さらに血液透析とPDそれぞれの1日のスケジュール比較についてもご講義いただきました。患者さんの日常生活に与える影響を理解する上で非常に貴重な学びとなりました。質疑応答では「PDはHDに比べて石灰化のリスクが緩やかだと聞くが、どの程度違うのか」という問いに対し、いずれの場合も生活習慣を厳密に管理しなければ石灰化リスクは存在するとの回答をいただきました。



次回は「経皮的心肺補助システム(PCPS/ECMO)」、「人工呼吸器」、「分娩監視装置・胎児振動刺激装置・ドプラ胎児診断装置」、「陰圧創傷治療システム(NPWT)」、「内視鏡機器」、「鏡視下手術機器」、「手術用ロボット手術ユニット」、「義肢装具」が登場します。

メディカルデバイスデザインコース2025運営チーム