【MDD Diary 2025】#12 (2025/9/13)
2025-09-18
本日は「医療機器開発のための機器実習」第4日目でした。機器開発の歴史や仕組み、実物の医療機器を用いた実演を通じて、臨床現場での活用方法や最新技術の進歩について学びました。

1限目 血糖値センサー(SMBG)
PHC株式会社
生活習慣病の代表例である糖尿病は今後も増加することが見込まれており、自己血糖測定(SMBG: Self Monitoring of Blood Glucose)の重要性はますます高まっています。
ご講義では、血糖測定器の開発が1960年代から始まり、試行錯誤を重ねて小型化が進み、1991年に上市された歴史について学びました。特に、毛細管現象を利用したスムーズな血液吸引を可能にするキャピラリ構造は、世界に先駆けて実現された技術であることが印象的でした。また、今後は更なる小型化を目指し、腕時計型や絆創膏型といったウェアラブルセンサーへの展望についてもお聞きすることができました。
実演では、実際の血液測定の手技を拝見しました。瞬時に血液が吸引され、速やかに血糖値が表示される様子を確認でき、さらに75gブドウ糖を摂取した後に血糖値が上昇する過程を観察することができました。
ディスカッションでは、「非侵襲での血糖値測定方法」について質問があり、現時点では極めて困難であり、技術面でのブレイクスルーが必要ではないかとのことでした。

2限目 グルコースモニタシステム(CGM)
アボットジャパン合同会社
先ほどのSMBGとは異なり、持続的に血糖値を測定できるのがCGM(Continuous Glucose Monitoring)の最大の特徴です。現在は小型化が進み、上腕部にセンサーを装着し、専用デバイスをかざすことで、リアルタイムで血糖値の推移を観察できるようになっています。ご講義では、日本人の2型糖尿病の平均HbA1cが7.1%であることに触れながら、糖尿病治療や合併症予防におけるCGMの有用性についてもご紹介いただきました。特に、14日間継続して測定できる点は大きな強みであり、FreeStyleリブレ2では血糖値の傾向を可視化できるほか、家族や医療従事者とデータを共有できるアプリ機能も備わっています。実演では、CGMの装着方法や測定方法、そして血糖値の変動を確認する様子を学びました。これまでインスリン投与中の患者でない場合、病院や薬局で処方を受けることはできず、B to Cで購入する形のみになっていましたが、昨今の保険上の評価の改定で、選定療養としてCGMを使用することができるようになり、大きく変わってきていることがわかりました。
また、質疑応答では、「腕にセンサーを装着すると目立つため、利用を控える人が多いのではないか?」「腕以外に装着は可能か?」という質問がありました。これに対し、肌色のテープで目立たなくする工夫や、今後は1円玉サイズへの更なる小型化を目指すといった展望が示されました。

3限目 ポータブルインスリン用輸液ポンプ
日本メドトロニック株式会社
次は、インスリン分泌が不足する2型糖尿病ではなく、インスリンを分泌できない1型糖尿病について学びました。国内の1型糖尿病患者数は約9万人とされています。
1型糖尿病の治療は、生理的なインスリン分泌を模して、基礎インスリンで24時間の恒常性を保ち、さらに食事による血糖上昇を抑える追加インスリンを組み合わせる「強化インスリン療法」が基本です。インスリンポンプ療法にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴を持っています。まず CSII(持続皮下インスリン注入療法) は、小型のシリンジポンプを24時間携帯し、超速効型インスリンを用いて基礎インスリンを持続的に投与します。さらに、食事や血糖値上昇に応じて追加インスリンを注入する「Basal-Bolus療法(基礎・追加インスリン療法)」を行う仕組みです。
実演では、インスリン充填の手技や実際の装着方法を確認しました。
「膵臓を摘出した場合にも適用されるのか」という質問がありましたが、1型糖尿病と同じく保険適応になるとの回答がありました。

4限目 血液透析機器(HD)
ニプロ株式会社
腎臓の解剖生理から学び始め、日本全国で透析施設が約4,500に及ぶことをご紹介いただきました。その上で、血液透析に必要となる機器であるダイアライザー(人工腎臓)について、詳細なご講義をいただきました。開発にあたっては、医師・看護師・臨床工学技士といった多職種のニーズに応えるために、画面の大型化や、タッチパネル操作時に音を出さずに振動で反応を伝える仕組みなど、様々な創意工夫が盛り込まれています。さらに、血液が流れる回路にセンサーをはめ込み赤外線を照射することで、血中の赤血球割合(ヘマトクリット値)を算出し、循環血液量を測定できる仕組みも搭載されていました。これにより、1回の透析治療でどの程度除水が必要かを計算するのがより容易になるとのことです。
実演では、血液透析の設置方法やモニタリング内容を確認し、針の抜去を防ぐための工夫やアラーム音の確認など、安全面に配慮した運用方法についても学びました。
質疑応答では、グローバル市場と日本市場の大きな違いについてのディスカッションがあり、海外では医療機器メーカーが透析センターを直接運営することも珍しくないとのことで、この辺りも地域ごとによりルールや文化が大きく異なることを学びました。

5限目 医療機関における医療機器の管理
楠本 繁崇 先生
大阪大学医学部附属病院医療技術部臨床工学部
まず初めに、大阪大学医学部附属病院における医療機器安全管理体制についてご教示いただきました。2002年に国立大学附属病院長会議が「臨床施設である国立大学法人病院の医療提供機能強化を目指したマネジメント改革」を提言し、それを受けて2005年4月に当院では『医療技術部』が発足しました。ご講義では、集中治療室や手術部、救命救急センター、血液浄化部といった実際の医療現場の写真を交えながら、臨床工学技士が多岐にわたる部署で活躍している様子をご紹介いただきました。日常業務としては医療機器の保守点検を担っているほか、「Open ME」という取り組みとして、看護師が医療機器に触れる機会を提供する研修を設けているとのことでした。
質疑応答では、「臨床工学技士の数は足りているのか」「外部委託を含めてリソースと業務量のバランスは取れているのか」といった質問がありました。これに対して、全国的に臨床工学技士の人数は不足しており、大阪大学医学部附属病院は比較的恵まれているものの、実際には業務量が多く、一部において外部委託も活用しながら業務を遂行しているとのご回答をいただきました。

6限目 超音波診断装置
株式会社フィリップス・ジャパン
本講義では、非侵襲で体内の状態をリアルタイムに可視化できる超音波診断装置について学びました。超音波は放射線を用いないため人体に無害で、繰り返し検査が可能であること、さらにリアルタイムで心臓や血流の動態を捉えられる点から臨床で広く用いられています。超音波装置は「パルス反射法」に基づき、反射波を検出して画像化します。周波数によって解像度と透過性に違いがあり、骨や肺など一部は描出が困難ですが、心臓や腹部など多くの領域を対象に検査可能です。近年は3DエコーやAIによる自動解析が搭載され、より分かりやすく、かつ標準化された診断が可能となっています。
実演では、プローブの当て方や描写映像を確認し、AIによる自動検出や3D映像の有用性を実感しました。
質疑応答では、最新の細径プローブであるX11-4tとX8-2tの画素数が変わらないということについて質問がありました。主に小児用である細径のX11-4tが成人用のX8-2tに置き換わってもよさそうなものですが、実際には、体内の深部を観察するにはX8-2tの方が適しており、小児や特定症例にはX11-4tが用いられるとのことでした。

7限目 ポータブル超音波機器
GEヘルスケアジャパン株式会社
次に学んだのは、手のひらサイズで利便性の高いポータブル超音波機器、いわゆる「ポケットエコー」についてです。「機能を絞る代わりに携帯性を高める」という設計思想のもと、これまでエコー検査を行えなかった場所や行わなかった医療従事者にとって、エコーの敷居を大きく下げる役割を果たしています。開発のミッションは「医師1人に1台のV scanを普及させる」ことであり、まさに聴診器のような使い勝手を目指した製品です。ポケットエコーの利点は、患者宅などの現場で迅速に診断が行えることです。たとえば、認知症患者の尿閉の有無を膀胱の描写で確認したり、発熱高齢者の原因が肺炎か胆のう炎かを鑑別してその場で対応を決定したりすることができます。これにより安易な病院搬送を避けられる点は、在宅医療において特に有用です。講義では、開発責任者であるステファン先生より開発の経緯や背景についてもご講義いただきました。
実演では、スマートフォンとプローブをペアリングして画面にエコー画像が描写される様子を確認しました。消化器系や頸部、肺といった部位の描写も可能であることを学びました。質疑応答では、「V scanが最も使用されている診療科はどこか」という質問があり、特に在宅医療で普及していること、今後は院内でのさらなる普及も見込まれるとの回答をいただきました。

【8限目】黄疸計
コニカミノルタ株式会社
日本が世界に誇るコニカミノルタの経皮黄疸計は、国内シェア約100%を占め、世界的にもジャンルトップの製品です。開発の契機は、赤ちゃんにやさしい医療を目指していた岡山医療センターの山内逸郎先生が、コニカミノルタの光計測技術者に開発を依頼したことに始まります。当時、正確な黄疸の測定には採血が必要で、目視での判定は非侵襲ながら不正確でした。日本では新生児の約80%に黄疸症状がみられますが、適切なモニタリングによって発症や重症化を防ぐことが可能です。一方、アフリカや東南アジアの一部地域では、新生児期の重大な疾患として依然として課題が残されています。測定のメカニズムは、プローブから皮膚に光を照射し、戻ってきた光の強さを検出するというものです。
実演では、実際の測定画面を確認し、胸骨部で3回連続測定を行い中央値を参照することが推奨される点や、プローブを垂直に当てるだけで容易に測定できることを学びました。
質疑応答では、「コピー製品が出ない理由」について質問がありました。これに対しては、特許やブランドによる防御もあるものの、最大の要因は市場規模が極めてニッチであり、新規参入の費用対効果が乏しいことが大きいのではないかとの見解が示されました。
次回はいよいよ最後のModule4が始まります。ビジネスとしてのアウトプットを目指す医療機器開発を進めるために、実際に医療機器開発を手がけてきた専門家から、成功のポイントや失敗談、危機をどう乗り越えたかについて学びます。
初日は、「我が国の医療機器開発の環境の現況と近未来 ~医工・産学官連携による医療機器のイノベーション戦略~」、「医療機器開発から販売までの取り組み~医工連携と参入課題への対応~」、「アルツハイマー病における血液バイオマーカーの確立」、「細菌・ウイルスの迅速診断を実現した新規IVD機器の開発」、「国産高頻度人工呼吸器(排痰補助装置)の開発から上市までの軌跡」、「医療機器開発プロジェクトにおけるスタートアップ戦略とビジネスモデルの考え方」について学びます。
メディカルデバイスデザインコース2025運営チーム