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【MDD Diary 2025】#3 (2025/6/21)

2025-06-24

こんにちは。メディカルデバイスデザイン(MDD)コース2025運営チームです。

6月21日(土)に開催された「Module 1 ~医療機器開発のための臨床医学~」の第3日目では、臨床の最前線で活躍される先生方から、専門領域と医療機器開発に関する貴重な講義をいただきました。今回はその1日を振り返ります。

1限目 放射線治療で求められる医療機器
秋野 祐一 先生

大阪大学大学院医学系研究科放射線治療学講座

大阪大学医学部附属病院の放射線科は移転後、最先端の機器と設備を備えた施設へと生まれ変わりました。秋野先生のご講義では、その施設内の地図を用いながら、実際に稼働している治療機器や最新の治療法について、映像とともに分かりやすく解説いただきました。近年の放射線治療のトレンドは、治療回数を減らし、短期間で高精度な治療を完結させることにあります。そのためには、「正常臓器を避けつつ、腫瘍には正確に照射する」という非常に高い技術が求められます。一方で、放射線治療においては、治療回数が多いほど収益が高くなる傾向がありますが、治療の精度が高いからといって収益が上がるわけではないという現場のジレンマもご紹介いただきました。また患者さんが動かないようにするための固定技術や、腸の内容物の管理など、実際の運用における課題についてもリアルに語られました。

最後の質疑応答では10件以上の質問が寄せられ、特に「日本全体における病院の放射線治療装置の状況はどうなっているのか?」という質問に対して、秋野先生は「大学病院が常に最先端というわけではなく、民間病院でも最新機器を導入している施設があり、地域差も大きい」とご回答くださいました。

2限目 消化器内視鏡機器の役割と今後の展開

林 義人 先生
大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学

世界に誇る日本の内視鏡医療技術について、林先生より最新の知見と臨床現場での実例を交えたご講義をいただきました。講義はまず、本邦における消化器がん死亡数の推移から始まりました。消化器内視鏡の開発史についても紹介され、微細な病変の視認性が格段に向上しているとのことです。特にがんの深達度の正確な評価は、治療方針の選定に直結するため、診断精度の向上は極めて重要です。先生は、食道がん・胃がん・大腸がんそれぞれの疫学や標準治療の現状についても、豊富な研究データを交えて解説されました。また、昨今、注目されているのがAIとの連携です。厚生労働省が選定する「重点6分野」の中にも画像診断支援が含まれており、内視鏡画像との親和性が高い領域として期待されています。しかし、現場の医師の間では「現時点ではAIの精度がまだ十分とは言えず、どこまで診断を委ねるかが課題である」との慎重な意見もあるとのことでした。

質疑応答では、「日本の内視鏡メーカーは世界をリードしているが、他国と比較してどのような強みがあるのか?」という質問に対しては、「日本にはカメラを扱う精密機器メーカーが多く、精緻な加工や繊細な操作を可能にする職人技が製品力につながっているのではないか」と述べられました。

3限目 消化器外科の臨床現場と医療機器

畑 泰司 先生
大阪大学大学院医学系研究科次世代内視鏡治療学共同研究講座

今回の講義では、外科治療の歴史的背景から最新の手術支援技術に至るまで、幅広い知見をご紹介いただきました。まず、全身麻酔が世界で初めて成功したのは、日本の江戸時代であることが紹介され、その後の外科医療の発展に大きな影響を与えたことが説明されました。現代では、腹腔鏡下手術が広く普及し、低侵襲かつ精度の高い手術が可能となっています。講義では、多種多様な自動縫合機についても実際の機器を交えて紹介されました。これらのデバイスや手術支援ロボットの進化により、出血量の軽減、安全性の向上、さらには遠隔操作による手術の実現など、手術の在り方が大きく変化しています。一方で、すべての症例においてロボット手術が可能なわけではなく、開腹手術が必要なケースも依然として存在します。そのため、将来的にロボットが主流になったとしても、若手外科医の基本的な技術習得と教育の重要性は変わらないという現場の実情も共有されました。質疑応答では、「手術支援ロボットは年々進化しているが、今後どのような進化が求められるのか?」という質問を取り上げます。「ロボット手術で蓄積された膨大な術中データをAIに学習させることで、さらなる手術支援の可能性が広がるのではないか」という展望が語られ、AI技術の融合による未来像に関心が集まりました。

4限目 糖尿病治療と医療機器~最新の栄養疫学エビデンスとその臨床応用

馬殿 恵 先生
大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学 ライフスタイル医学寄附講座

日本人の成人約2,000万人が罹患または予備軍とされる糖尿病について、馬殿先生よりご講義をいただきました。近年、持続血糖測定(CGM: Continuous Glucose Monitoring)の技術革新により、自動でインスリン量を調整できるシステムが登場し、血糖コントロールがより簡便になってきています。また、健康的な食事は死亡リスクの低減だけでなく、QOL(生活の質)にも関係することが、先生ご自身の研究を含む最新の栄養疫学エビデンスから明らかになっています。さらに、これらの知見を社会に実装する取り組みとして、「Teaching Kitchen」というプロジェクトも紹介されました。これは、健康的な食事を実践的に学ぶ場を提供し、生活習慣病の予防・改善を目指す新しい教育的アプローチです。

次回は「麻酔・集中治療と医療機器」、「救命救急と医療機器」、「小児外科の臨床現場と医療機器」、「脳神経外科領域の臨床と医療機器」について学びます。

メディカルデバイスデザインコース2025運営チーム