【MDD Diary 2020】#13 (2020/09/12)「医療機器開発の実践1」
2020-09-12
本日はModule 4「医療機器開発の実践」第1日目でした!
1限目は大阪大学国際医工情報センターより妙中義之先生をお招きして、「我が国の医療機器開発環境の現況と近未来 -医工・産学官連携による医療機器のイノベーション戦略-」と題してご講義いただきました。
講義前半は、平成27年の日本医療研究開発機構(AMED)設立など、医療機器開発が国家の成長戦略としての位置づけられ、さまざまな事業が行われている状況についてご説明いただきました。AMED設立により、各省における医療分野の研究開発予算が一元化され、基礎研究から実用化までシームレスに支援することが可能になっているそうです。2020年から第2期に入り、現在では6つのプロジェクトが進められているそうで、ご講義では、医療機器・ヘルスケアプロジェクトとその中の事業の一つである医工連携事業について詳しく教えていただきました。この事業は、開発資金を支援するだけでなく、事業開始当初から各分野の専門家によるコンサルティングを実施することで事業化を加速するという特徴を持っているとのことでした。講義冒頭に先生がおっしゃっていた「医療機器は企業によって製品化されてこそ患者・医療従事者に届けられる」という言葉が非常に印象に残っています。医工連携によって医療機器を開発するだけではなく、その機器により収益が上がり事業が持続的にできることが重要なのだと思いました。講義後半では、医工連携の実例として先生が研究開発から製品化まで携わってこられた高性能人工肺についてご紹介いただきました。基礎研究から治験、臨床応用、製造販売にいたるそれぞれのプロセスが図示されたスライドには、非常に多くの病院、大学、企業の名前が記載されており、医療機器開発はあらゆる分野の叡智が結集され生み出されるのだと実感しました。
2限目は山科精器株式会社より保坂誠先生をお招きして、「医療機器開発から販売までの取り組み~医工連携と参入課題への対応~」と題してご講義いただきました。
先生がご勤務されている山科精器株式会社は、もとは産業用機器の製造事業をされており、メディカル事業部が設立されたのは2009年とのことでした。ご講義ではメディカル事業への新規参入時の取り組みについて、公的支援を活用した事業展開、産学官連携を活用した製品開発、メディアを活用したブランディングの3つの観点から、大変具体的にご紹介いただきました。また、開発期間の長期化による需要減少などを理由に製品化に至らなかった開発品があったという、通常ではなかなか表には出てこないようなお話もお聞きすることができ大変貴重な時間でした。さらに、医療機器特有の流通形態とそれに関連した価格構成についてもご説明いただきました。ビジネスとして持続させるためには利益を上げなければなりません。そのための部材コストの比率など、事業化する上で重要なポイントであるコスト面について非常にリアルなお話を聞くことができ大変勉強になりました。
3、4限目はサムエルプランニング株式会社より宮坂強先生をお招きして、「医療機器開発のマーケティング①②」と題してご講義いただきました。
世界において医療機器市場を牽引しているのは米国です。まずは「米国の医療機器企業がなぜ強いのか」について、米国の医療機器クラスターとエコシステム、組織とマーケティングの観点からご説明いただきました。今後は日本でも、企業や医療関係者、行政などが協力して日本型エコシステムを構築するための環境整備や人材育成を積極的に行っていく必要があると理解することができました。また、講義後半にご説明いただいた、自社のリソース分析の際に、医療機器開発・事業化に必須の機能・役割を「販売組織」「マーケティング」「エンジニア」などのいくつかのカテゴリーに分類して考える方法は、網羅的に状況を把握できるので大変有益であると思いました。
4限目では3限目にお話しいただいた内容を踏まえ、医療機器開発においてどのようなマーケティングが必要なのかをより具体的にご説明いただきました。まずはPEST分析といわれるマクロな環境(保険制度や薬機法等の政治的要因(P)、医療費などの経済的要因(E)、少子高齢化等の社会的要因(S)やAIやIoT等の技術的な要因(T))の分析について詳しくご説明いただきました。さらに、開発する機器の価値・事業性を評価するために、臨床的価値や普遍性などに焦点を当てる考え方や、競合する会社や製品の分析などの方法についてもご紹介いただきました。本講義を通してマーケティングは継続的に多角的な分析が要求される大変な作業であると感じました。質疑応答では、マーケティングにおけるAIの活用に関する話題も出ていましたが、AIの特性を考えると、この分野においても活用が期待できるのではないかと思いました。
5限目は滋賀医科大学より芦原貴司先生をお招きして、「心房細動をリアルタイムで可視化する医療機器の開発」と題してご講義いただきました。
はじめに、先生が開発された心房細動をリアルタイムで可視化する医療機器「ExTRa Mapping」の開発経緯とその特徴についてご説明いただきました。そして開発のご経験をもとに医療機器開発を成功に導くために必要なことについて教えていただきました。長年研究開発に取り組んでこられた間には、先生の開発に向かい風となってしまうような内容の論文が発表されることもあったそうですが、それでもあきらめることなく開発を続けてこられたという話を聞きながら、日々患者さんに向き合っている臨床医だからこその強力な使命感のようなものを感じました。また、ExTRa Mappingを臨床導入する上で従来よりも手術時間を延ばさないことを重視されたという点にも、臨床医としての視点が大きく表れているように感じました。日々、臨床現場で見つめてきたニーズを臨床医自らの手で具現化されたプロセスを、先生の思考過程も含めてお聞きすることができ大変勉強になりました。
6限目は市立豊中病院より大久保和実先生をお招きして、「看護師の立場から見る医療現場と医療機器~高齢化時代の病院と認知症ケアの現場から~」と題してご講義いただきました。
認知症高齢者の方を看護するにあたり、患者さんの身体抑制をしないために努力しているケアや、転倒のリスクを回避するために行っているケアについてご紹介いただきました。また、先生が朗読される物語の主人公になることで「認知症患者」の体験をするというワークを通して、認知症患者さんがどのような状況にいるのか、どのように物事をとらえているのかについて、思いを巡らせる機会を持つことができました。周りからみると理解に苦しむような不思議な行動であったとしても、その行動を起こすに至った経緯が必ず存在するため、看護師はそれらをその都度考えながら対応されているとのことでした。その対応をより円滑に、かつ効果的にするために、講義や質疑応答で取り上げられていた「患者さんの情報を医療者間や家族と共有できる機器」や、「患者さんが看護師を必要とする時間帯を把握できるナースコール」などが実用化されるとよいと思いました。また、これら以外にも臨床現場にはニーズがたくさんあると考えられるので、まずは看護師の声を直接聞くことが重要であると思いました。現場のニーズをもとに多くの機器を開発することが、昨今社会問題となっている医療従事者不足を解消する一助にもなるのではないかと感じました。
次回は9月19日です。来週午前中は医療機器開発のためのファイナンス・MDDグループワーキングVI、午後からは米国医療機器企業のM&Aと技術的背景、そして、初の先駆け審査指定制度承認で知られる「チタンブリッジ」の開発事例から学びます。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
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2020.9.12
MDD Diary 2020
Written by team MDD