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【MDD Diary 2020】#16 (2020/10/17)「医療機器開発の実践4」

2020-10-17

本日はModule 4「医療機器開発の実践」第4日目でした!

 


1限目は、三洋化成工業株式会社より前田 広景先生をお招きして「日本発の新しいタイプの外科用止血材の開発と実用化」というテーマでご講義頂きました。
マツダイトという外科用止血剤の開発、クラスⅣ・新医療機器としての薬事承認や販売に至る過程についてご紹介いただきました。既存の生物由来の止血剤や合成系止血剤の課題をもとに、まだこの世にない新たな止血剤を作り出そうと取り組まれた25年についてお聞きしていると、開発者の熱意がひしひしと伝わってきました。市販後も治験の何倍もの症例の調査を行われたそうです。膨大なデータ処理と臨床現場への協力依頼など大変労力を要する作業であったと思われますが、市販後調査のデータも生かして2019年CEマークを取得、2020年3月には国内における適応拡大の承認を取得されたとのことでした。日本発のマツダイトが世界中で多くの患者さんの命を救う未来を考えると日本人として誇らしく感じました。

 

2限目は、株式会社 AY medicalより澤海 綾子先生をお招きして「看工連携による医療機器開発の取り組み 〜心臓カテーテル用手台の開発から製品化・販売・起業までの道のり」というテーマでご講義頂きました。
看護師としてカテ室(血管造影室)に勤務されている中で、自ら感じておられた心臓カテーテル用手台にまつわる現場ニーズを拾い上げ、製品として売り出すまで、そして販売後さらに製品ラインナップを充実されてきた過程についてご紹介いただきました。現場で働く医療従事者が中心的役割を果たして、医療機器開発をされてきた澤海先生の開発プロセスは、とてもスピード感があると感じました。看護師としての本務がある中での開発は多忙を極めておられたと思いますが、それによってもたらされる現場ニーズの吸い上げやフィードバックの速さ、医療者とのネットワーク構築は、開発にとって大きな追い風であったのだと思いました。医療従事者目線での医療機器開発の実践例をおうかがいすることができ、大変有意義でした。

 

3限目は、埼玉医科大学総合医療センターより谷口 淳先生、三幸製作所より宇賀神 俊之先生をお招きして「臨床現場の課題を解決する酸素残圧低下警報器」というテーマでご講義頂きました。
谷口先生からは臨床工学技士のお立場から、酸素療法時のトラブル事例など臨床現場の状況や、病院で実施した開発製品の評価についてご紹介いただきました。医療従事者が日々感じている臨床現場での「あったらいいな」を説得力を持って外部へ発信し、それを製品開発までつなげられた先生のご講義は大変リアリティのあるものでした。宇賀神先生からは、開発の経緯やコスト、実際に行われた宣伝活動など、日頃きくことができない舞台裏の部分までご紹介いただきました。「医療機器開発は技術的な課題や費用の問題など数々のハードルがあり、信念がないと挫折してしまう」、「初めて医療機器開発を手掛けるときは、リスクの高いクラスⅢ以上の医療機器より、非医療機器やクラスⅠから始めたほうが実現性が高い」など、医療現場のニーズを社会実装につなげた先生のお言葉はとても説得力がありました。
 

4限目は、株式会社MICINより原 聖吾先生をお招きして「医療をより患者に近づけるオンライン診療」というテーマでご講義頂きました。
医師である原先生ご自身のバックグラウンドから創業に至るまでの経緯と、現在展開されているオンライン診療サービスについてご説明いただきました。これまでのオンライン診療は、対象疾患の制約や、収益性の低さなど診療報酬上の課題があり普及が進まなかったという背景があるそうです。しかし昨今では新型コロナウィルス感染症の影響もあって規制が緩和され、オンライン診療が活用できる場面は広がってきているとのことでした。対面診療では医師に聴診器を当ててもらって、直接、顔色をみてもらうことができます。ただそれは診察室に座ったその一瞬でしかありません。オンライン診療や遠隔モニタリングデバイス、AIによる医療データの活用などにより、来院のタイミングだけでなく日常的に健康状態が把握されるという新たな医療の形について想像することができ、心躍るご講義でした。

 

5限目は、オムロン ヘルスケア株式会社より西岡 孝哲先生、四ノ宮 昇先生をお招きして「ウェアラブル血圧計の開発とゼロイベントが目指すもの」というテーマでご講義頂きました。
西岡先生からは血圧計の歴史とウェアラブル化、”世界最小のキーパーツ”を創出した過程についてお話しいただきました。開発が終わってから販売に至るまでそこからさらに1年ほどかかったというお話は印象的でした。部品の歩留まり、工程の最適化など量産に至るまでにも様々な課題があったということで、新たな製品を世に出すことは大手医療機器メーカーであっても一筋縄ではいかないということをあらためて感じました。
四ノ宮先生からはゼロイベント(高血圧が原因で起こる、生死に繋がるような疾患(イベント)をゼロにする取り組み)に向けたチャレンジについてご説明頂きました。製品は日本国内に先んじてFDA認証を取得しており、ウェアラブル血圧計の精度評価の際には、国際規格を満たすだけでなく、ウェラブル血圧計の特性を加味して自由行動下測定法との比較も行われたとのことでした。ご講義の中で、“精度”についてたびたび言及される姿が、開発者の製品にかける思いを反映していると感じました。

 

6限目は、株式会社メディカロイドより浅野 薫先生をお招きして「日本発の手術支援ロボットシステム」というテーマでご講義頂きました。
ご講義冒頭で、株式会社メディカロイド設立に至るまでの経緯について、シスメックス株式会社と川崎重工業株式会社のつながりなども交えてお話いただいたのち、開発されたhinotoriサージカルロボットシステムの特徴やその開発経緯、今後の展開についてご説明いただきました。また、ご講義の最後には、医療機器開発を目指す方へのメッセージを送っていただきました。その中で、「顧客の真の声を聴くことが重要で、真の声は顧客を本気にしないと聴けない、真の声が聴けないと製品にはならない」と話されており、そのメッセージからは医療機器開発の難しさとともに、開発の楽しさや醍醐味のようなものも感じました。すでに実績のある先行品との競争については、「切磋琢磨することは重要でありその中で、日本企業らしく、顧客の要望を聞いて改良につなげていくことを目指していきたい」と力強く語られる姿に、まさに本コースの趣旨でもある「日本からめざす、医療機器開発のスペシャリスト」をみた気がしました。

 
 

講義終了後には、貴島晴彦センター長出席のもと、オンライン終了式を行いました。今年は受講生の皆様と食事しながら集うということはできませんでしたが、ぜひこれからも医療機器開発の世界でつながれることを願っております。半年間お疲れ様でした。

 
MDD2020におきまして、ご講義いただきました講師の先生方、今年もありがとうございました。

 

 

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2020.10.17
MDD Diary 2020
Written by team MDD