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【MDD Diary 2021】#13 (2021/09/25)

2021-09-26

本日はModule4 〜医療機器開発の実践〜第1日目~でした。

1限目 我が国の医療機器開発環境の現況と近未来  -医工・産学官連携による医療機器のイノベーション戦略-
妙中義之先生(国立循環器病研究センター)

AMED(医療機器開発機構)では「基礎から実用化までの一貫した研究開発支援」を基本方針に6つの統合プロジェクトを推進しており、医療機器関連のものとしては「医療機器・ヘルスケアプロジェクト」があるそうです。そのプログラムディレクターのお立場から、医療機器開発のエコシステム体制の整備状況や、医工連携イノベーション推進事業により上市された製品数や売り上げ金額の推移等、日本における医療機器開発の最新の情報を数多くご紹介いただきました。事業化を成功に導くには、医療現場におけるニーズ・課題の洗い出しや、知財・薬事・保険償還等、医療機器開発には欠かせないステップを見据えた事業化戦略を開発初期から立案しておくことが非常に重要であると教えていただきました。

2限目 医療機器開発から販売までの取り組み~医工連携と参入課題への対応~
保坂誠先生(山科精器 株式会社)

異業種から医療機器開発産業へ新規参入するにあたり、製品開発から上市までのそれぞれのステージで実際に直面された課題と、その対応事例についてご紹介いただきました。製品開発には非常に長い時間がかかるため、開発途上で現場ニーズが変化してしまい事業化を断念せざるをえない可能性を認識しておくことや、長期にわたる開発期間を見据えた無理のない投資計画と継続的発展を実現しうる人材確保・育成が、非常に重要であるとのことでした。医療機器開発は製品の質を追求するだけでなく、多角的かつ長期的な視点での戦略が求められていると感じました。

3限目 医療機器開発と保険償還
谷岡寛子先生(京セラ株式会社,大阪大学国際医工情報センター)

講義前半では、診療報酬の全体像から、保険医療材料の評価区分の違いとそれぞれの特徴、償還価格の算出方式など、医療機器に関連した保険償還制度についての基礎的知識について、申請ステップを踏まえて系統立ててご説明いただきました。後半は、診療報酬改定に伴う再算定や機能区分の見直し等について、実際の保険償還価格の変動を示すグラフをお示しいただきながら解説していただきました。また、平成30年から新設されたチャレンジ申請とよばれる、使用実績を踏まえて保険収載後に新規機能区分の該当性について再度評価を受けることができる制度をご紹介いただきました。加算や新区分を申請するための臨床データをどのタイミングで取得するのか、学会や業界団体との綿密な関係性を維持して常に最新の情報収集をしていくことが保険戦略にとっては欠かせないことであると教えていただきました。

4限目 看工連携による医療機器開発の取り組みとその後~心臓カテーテル用手台の開発から製品化・販売・起業までの道のり〜
澤海綾子先生(株式会社 AY medical)

カテ室(心臓カテーテル検査・治療を実施する血管撮影室)に勤務する看護師として、先生ご自身が抱いた「安全かつ安楽に橈骨動脈穿刺ができる手台が欲しい」というニーズをもとに、試作を繰り返しながら製品を完成させ、特許出願、医療機器クラスⅠの取得、販売までを実現されたという非常に興味深いお話を聞かせていただきました。開発当初は「ラディ丸(橈骨穿刺用手台)」だけだったのが、今では「あし丸」、「あた丸」、「ミニ丸」と製品ラインナップが増え、さらに、心臓カテーテル看護に関する情報発信を行うYoutubeも開設されるなど、どんどん事業を拡大されておられる状況をお聞きしました。「たとえ現場ニーズから生まれたものであっても、現場に「使いたい!」と思ってもらうことができなければ、製品は売れない」、とも話されており、医療機器開発の事業化の難しさを改めて感じました。

5限目 ICTでめざす、世界中のお母さんのための安心・安全な出産
尾形優子先生(メロディ・インターナショナル株式会社)

産科医療を担う施設の減少や、離島をはじめとした遠隔地における産科医不足など、周産期医療が抱える課題を目の当たりにする中で、“人生2度目の起業”を決意され、世界ではじめて遠隔で胎児心拍をモニターできる分娩監視装置iCTGを開発、そして海外展開へと事業を拡大してこられたお話を聞かせていただきました。「一歩一歩地道にすすめてきた」と先生ご自身が振り返っておられましたが、ベンチャー企業が挑む医療機器開発、そして商業化の道のりは、業許可の取得の難しさや、種々の規格の要求事項に適合させて認証を取得する困難さなど、非常に多くの壁があったとのことでした。それらを乗り越え、iCTGの製品化を実現できたのは、開発者の方々のたゆまぬ努力と「世界中のお母さんに安心・安全を届けたい!」という産科医療の課題解決への熱い思いであったのだろうと感じました。

6限目 看護師の立場から見る医療現場と医療機器~高齢化時代の病院と認知症ケアの現場から~
大久保和実先生(市立豊中病院)

老人看護、主に認知症看護の分野で看護師として働いてこられたお立場から、先生が現場で出会った認知症高齢者とのエピソードをご紹介いただきました。認知症を患っておられる患者さんの一見不可解にも思える言葉や行動に対し、真摯に向き合い、隠された真の意味を探ろうとする看護師さんの優しく誠実な対応をお聞きしながら、他者を理解し、その思いを受け止めることの重要性を学ばせていただきました。
また、この春まで病棟師長としてご勤務された新型コロナウィルス感染症対応病棟において、看護師さんたちが病室の掃除をしてくれるお掃除ロボットに名前をつけて、大切なパートナーとして接していたというお話をお聞きして、心が温かくなるとともに、「機器を使うのは最終的にはこの私たち、すなわち人の手である」という言葉の意味を理解できたように感じました。

10月2日は、医療機器開発の事業化についてのグループワーキング、そして医療機器開発におけるマーケティング、AI内視鏡の実用化について学びます!

2021.9.25
メディカルデバイスデザインコース2021運営チーム