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【MDD Diary 2021】#15 (2021/10/09)

2021-10-10

本日はMDD Group Working – Ⅶ・Ⅷ ~ 医療機器開発と保険戦略①② ~が行われました。

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午前は「カテーテル治療デバイス」について、午後は「治療アプリ」について、8つのグループに分かれて保険戦略を考え、プレゼンテーションしました。このグループワーキングでは、医療機器保険適用希望書の内容を埋めることではなく、「なぜこの申請内容になるのか」のロジックを考えることを目的としています。公的保険の枠組みの中では、患者、医療機関、保険者などを含むすべてのステークホルダーが納得できる価格提案でなければ、いくら高い価格をめざしても認められることはありません。価格決定のプロセスとして、基本的に医療機器の価格は類似する機器の価格を基準とし、それと比較したときの差分を加算した価格になります(類似機能区分比較方式)。つまり、どれだけ研究開発に時間とお金をかけたものであっても、有効性や安全性に関する差分がなければ、類似品と同じ価格があてがわれることになります。比較対象となるものがなければ、研究開発に要した費用に一定の利益を載せた価格として算出されます(原価計算方式)。しかしながら、どちらの方式においても、「開発した医療機器が社会にとってどの程度の価値をもつか」に基づいて価格が決定されるということに変わりはありません。したがって、この有効性・安全性に関する価値をどのように客観的に示すのかが重要になる訳です。開発した医療機器は「モノ」として価値が評価されるのか、あるいは、「サービス」として評価されるのか、すなわち「特定保険医療材料」なのか、それとも「技術料包括」なのか、類似する機器やサービスは存在するか、そしてそれらとの差異は何か、これまでの講義やグループワーキングで学んだことを総動員して、丸一日保険戦略のグループワーキングに取り組みました。

レクチャー1 「医療機器と診療報酬制度」
一戸和成先生(北部上北広域事務組合 公立野辺地病院)

午前のグループワーキングに先立ち、診療報酬制度に関してご講義いただきました。先週は主に「モノ」としての評価、すなわち特定保険医療材料の保険償還価格決定のプロセスについて学びましたが、今回はもうひとつの機軸である「サービス」としての評価、すなわち技術料決定のプロセスについて学びました。保険適用されるためには、有効性・安全性が客観的に示されることが必要になります。新規医療技術が医療技術評価分科会での評価を経て、保険適用されるまでのプロセスについて、これまでも登場したロボット支援下手術や仮想気管支鏡画像を用いた気管支鏡検査を例にご説明いただきました。医療機器の保険上の評価を決定する中央社会保障医療協議会(中医協)の役割や関連する組織を含めた全体像、2年ごとに行われる診療報酬改定、近年の改定率の推移についてもご説明いただきました。改定時に社会保障審議会医療保険部会・医療部会において決定される基本方針には、国としての方向性が示されており、開発や事業の戦略を策定する上で重要であることがわかりました。

レクチャー2 「デジタルヘルスと保険」
大竹正規先生(GEへルスケア・ジャパン株式会社

午後のグループワーキングに先立ち、デジタルヘルスの保険制度についてご講義いただきました。デジタルヘルスに関する保険については、まさに今、行政・アカデミア・企業などで議論されているとのことす。本年度中には、開発・導入を迅速化するための審査制度の見直しや、医療保険上の評価の明確化についての結論が出る見込みとのことでした。デジタルヘルスという新たな技術に対して、既存システムによる評価の限界を明らかにして新システムの評価項目を策定することや、既存技術と比較したデジタルヘルス技術の患者貢献度を根拠をもって示すことなど、やるべきことはたくさんあります。最終的にステークホルダー間での合意形成に至るまでにはさまざまな議論が必要ですが、公的保険制度の枠組みの中で進めていくためには必要なプロセスであると思いました。

レクチャー3 「デジタルヘルスの保険評価に関する現状」
笹田学先生(厚生労働省)

保険戦略のグループワーキングの締めくくりとして、今回のグループワーキングのテーマであったSaMD(Software as a Medical Device)について、開発におけるポイントについて解説いただきました。開発しているプログラムの医療機器該当性判断は事業戦略を考える上でも重要であり、また治療アプリであることを示すための臨床試験設計は薬事承認と密接に関連していることなどを考えると、開発当初から保険適用を見据えた戦略を立案することが非常に重要であると学ぶことができました。

リスクマネジメントから薬事申請、照会対応、事業化、保険戦略と一貫したシナリオでグループワーキングを進めてきました。治験が薬事承認だけのためではなく、その後にも大きく影響するものであること、事業化するか否かのデューデリジェンスにおいて、承認や保険のプロセスが見えていることがいかに重要であるかがわかりました。来週は、これらの道のりを経て臨床現場に届けられた医療機器のヒストリーから学びます。

2021.10.9

メディカルデバイスデザインコース2021運営チーム