【MDD Diary 2021】#16 (2021/10/16)
2021-10-17
本日はModule4 〜医療機器開発の実践〜第4日目~、MDD2021レギュラープログラム最終日でした。
動脈性出血に対する新しいタイプの止血剤を、世界に先駆けて日本で開発し製品化したお話を聞かせていただきました。医療機器産業への異業種からの参入という状況で、医療機器クラスⅣというもっとも厳しい薬事承認の条件をクリアして製品化するまでには、非常に多くの困難があり、一旦は開発を断念したこともあったそうです。薬事承認後の市販後調査も、治験よりもはるかに多い症例数で、フォローアップ期間も長くなるなど非常に大変なものだったとのことでしたが、そのデータがもととなり、現在では、国内での適応拡大やCEマーキング取得など、事業拡大に向けて進んでいるとのことでした。
慢性創傷治療に用いるデブリードマン(感染・壊死組織の除去)専用超音波手術器の開発、薬事承認から保険収載までの道のりについて、製品企画や薬事戦略立案を担われた製造販売業、製品製造や生産管理を行われた製造業、それぞれのお立場からご講義いただきました。そして、ご講義後半では、ニーズ・シーズの提供や研究開発に対する臨床的助言をされた市岡先生もご参加いただき、薬事・保険収載における難所や本事業の臨床的意義についてお話いただきました。医療機関としても収益度返しの医療提供を継続することは難しく、保険適用とならなければ臨床使用に積極的にはなれないという現状があり、出口戦略のひとつである保険戦略について事前に検討することは非常に重要であるとのことでした。立場の異なる6名の先生方から、それぞれの視点で医療機器開発についてのお話をお聞きすることができ大変有意義な機会となりました。
讃岐徹治先生(名古屋市立大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科学)
アカデミア発の新規医療機器であるチタンブリッジが、薬事承認を経て保険収載に至るまでのプロセスについてご紹介いただきました。この機器は初の先駆的医薬品等指定制度(先駆け審査指定制度)で承認された医療機器です。希少難治性疾患の治療デバイスであったこともあり企業治験が難しく、臨床医であった讃岐先生ご自身が中心となって医師主導治験を進められたとのことでした。チタンブリッジは「モノ」として特定保険医療材料の形で保険適用されていますが、いわゆる「サービス」として、これを用いた手術手技も甲状軟骨固定用器具を用いた喉頭形成手術という新規医療技術の形で保険適用されています。学会と連携して手技マニュアルを作成したり手術講習会を行ったりと、保険に収載されるまでの長い道のりについても教えていただきました。発声は人間関係や仕事などに大きな影響を及ぼすものであり、チタンブリッジによる治療の症状改善効果は、患者さんのQOL向上に大きく貢献するものであると思います。この革新的な医療機器が日本から生まれたこと、そして今後、世界中の患者さんを救うようになると考えると、先生が成し遂げられたプロジェクトの偉大さを改めて感じました。
村瀬剛先生(器官制御外科学 (整形外科))
上肢骨折後の変形癒合は、正確に元通りの形状に矯正することが求められるものの、従来の治療法では正確性に限界があったそうです。そこでこの問題を打破すべく、新たな治療として「カスタムメイドガイド」と「カスタムメイドプレート」を開発され、薬事承認・保険収載を経て実用化されたお話を聞かせていただきました。また、ご講義後半では、シミュレーション支援・データ管理クラウドシステムの構築により、エンジニアとドクターの情報共有の円滑化や、ビッグデータを活用したAI開発に取り組まれているという興味深いお話も聞かせていただきました。臨床医として現場での治療を行いながら、公的助成を受けての研究開発やベンチャー設立、企業との協業による実用化、そして今なお、未来を見据えた開発を進めておられる、先生の行動力や熱意に大きな感銘を受けました。
高橋広幸先生(帝人ナカシマメディカル株式会社)
脊椎圧迫骨折などにより脊椎が不安定化した場合には、自家骨を移植した「脊椎ケージ」とよばれるデバイスを用いた治療が行われるそうです。ご講義では、骨組織の配向性に着目し、健全な骨形成を促すことで脊椎ケージを固定化するという新たな技術から生まれた脊椎インプラントの研究開発のお話を聞かせていただきました。研究開発が進んだ理由として、高齢化による脊椎インプラント市場の拡大や3次元積層造形の普及といった社会的要因に加え、国産の脊椎インプラントを製品化したいという臨床家の熱意が集結したことや、関連事業の企業買収があったこともご紹介いただきました。医療機器を開発、そして社会実装するには、技術が優れていることに加え、社会ニーズを予見、察知する能力が必要であり、そしてやはり開発に関わる人たちの強い思いが重要であると感じました。
浅野薫先生(株式会社メディカロイド)
シスメックス株式会社と川崎重工業株式会社により設立されたメディカロイド社が開発した、日本発の手術支援ロボットhinotoriサージカルロボットシステムについて、その開発の経緯や製品の特徴についてご紹介いただきました。また、AIおよびIoTを活用してリモートサポートやデータ解析による効率化、医療技術の伝承支援を実現するMINSと呼ばれるネットワーキングサポートシステムについてもご紹介いただきました。今夏には北海道と九州をつないで実証研究が行われ、2000㎞という通信距離でもスムーズに操作可能であることが確認されたというお話も聞かせていただき、国産の手術支援ロボットが日本全国、そして世界へと羽ばたいて多くの患者さんを助ける日が目の前まで来ていると感じました。「日本の旗を世界に掲げます」と話してくださった先生の力強い声がとても印象的でした
講義終了後に、オンラインでMDD2021修了式が行われました。当センター長の貴島先生より受講生へ修了証が授与され、受講生代表の方からご挨拶をいただきました。最後はみんなで記念撮影を行いました。今年も130名近い方に受講いただきありがとうございました。
貴島晴彦センター長
MDDコースをご受講いただきました皆様、そしてご講義いただきました先生方、ご協力いただきました医療機器メーカーの皆様、あらためまして感謝申し上げます。
皆様の益々のご活躍をご祈念申し上げます。
2021.10.16
メディカルデバイスデザインコース2021運営チーム