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【MDD Diary 2022】#15 (2022/10/15)

2022-10-17

本日はModule4 〜医療機器開発の実践〜3日目~、丸一日かけて医療機器の保険戦略について学びました。

1,2限目 Group Working – Ⅶ 
医療機器開発のための保険戦略①
一戸和成 先生 北部上北広域事務組合公立野辺地病院

1,2限目 Group Working – Ⅶ 
医療機器開発のための保険戦略①
笹田学 先生 厚生労働省

午前中最初の講義では、一戸先生より「医療機器と診療報酬制度」というテーマでご講義いただきました。診療報酬は「技術・サービスへの対価」および「物への対価」という側面だけでなく、医療サービスの質・量や医療提供体制の構築、財政にも大きく影響を与える重要なものであることをご教示いただきました。また、今年度の診療報酬改定や、新しい医療技術の導入や、無駄な医療費を膨らませないための医療保険外併用療養費、先進医療などについても、国としての方向性と併せてご説明いただきました。

次に、笹田先生より「医療機器の保険償還と材料価格制度」というテーマでご講義いただきました。「物への対価」に相当する特定保険医療材料には原価計算方式と類似機能区分比較方式が存在します。一方で、「技術・サービスへの対価」として評価される技術料包括については、機器自体に価格が設定されるわけではなく、その機器を使用する診療に対して保険点数が付与されます。医療機器を開発する際は、その機器がどちらで評価されるのが望ましいか、そして、特定保険医療材料となる場合には、類似するものがあるのか、その差分に対して加算される可能性があるのかなどについて、事前に十分検討しなければいけないことを教えていただきました。

 これらをレクチャーを踏まえ、午前のグループワーキングでは、これまで薬事(Module2)→知財(Module3)→事業化(Module4)の流れで検討してきた、心血管領域の新規デバイスについてディスカッションならびにプレゼンテーションを行いました。この領域は現在世界でもホットですが、これまで治療が難しかった患者さんに対する新たな選択肢となるデバイスということで、各チームとも類似する既存デバイスがあるか、加算はつけられそうかなど、さまざまな角度から議論を重ね、発表いただきました。

3,4限目 Group Working – Ⅷ 
医療機器開発のための保険戦略②
岡﨑譲 先生 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)

3,4限目 Group Working – Ⅷ 
医療機器開発のための保険戦略②
大竹正規 先生 GEへルスケア・ジャパン株式会社

 午後最初の講義では、岡崎先生より「プログラム医療機器の審査」というテーマについてご講義いただきました。従来からある医療機器の場合を踏まえながら、物理的な形で患者に働きかけることがないプログラム医療機器における医療機器審査で重要なポイントを学びました。また、近年目覚ましい発達を見せるAIを活用した医療機器の評価では、ブラックボックス性や継続的性能向上時の可塑性に考慮が必要であると分かりました。最後に、次世代医療機器評価指標にあたる行動変容アプリについて、実際の対応例を参考に承認までの過程を見せていただきました。

 次に、大竹先生より「デジタルヘルスと保険」というテーマでご講義いただきました。デジタルヘルスという新しい技術に対する保険上の評価はまさに現在進行形で、各所において議論が進められているところです。プログラム医療機器の評価ポイントの明確化が課題となっている状況を踏まえ、いくつかの実例を通してアプリの保険適用のルール化が求められていることや、健康アプリとの線引きの難しさなど具体的なポイントを知ることができました。医療への貢献や開発過程を適切に評価しつつ、既存のルールで対応できる部分と、新たなシステムの導入が必要な部分を判断していくことが大切になりそうです。

 今回保険の枠組みの中で審査官の先生にもご講義いただきましたが、「薬事承認を得てから保険戦略を考えるのは手遅れである」というメッセージが根底にあることに気づきました。承認審査のプロセスでは、先行事例との差分が少ない方が追加で示すべき事項も減り、ハードルが低くなりますが、一方で、保険償還のプロセスでは、今までになく画期的なもので、臨床的にもこれまでにみられなかった新しい効果が見込まれる方がより高い評価が得られます。ここには明確なtrade offが存在し、それゆえに薬事戦略の段階で、いたずらに先行例との類似性をアピールするのではなく、その機器の臨床的アウトプット(=開発した医療機器の価値)をどう示すのかというところまで見通した戦略を立てる必要があります。審査と保険を並べて学ぶことで、この一連の流れをつかむことができました。

 レクチャーに続いて、治療アプリのシナリオについて、保険適用希望区分や算定方式、点数設定の背景・根拠や保険償還取得後の中長期戦略などについてディスカッションを行いました。プログラム医療機器については先行事例が限られており、検討は難解さを極めましたが、各グループともこれまでの講義やグループワーキングで学んだことを総動員して取り組まれていました。最前線で活躍されている専門家の先生方から補足やご指摘、講評をいただいたことで、医療機器の保険戦略の理解を実践的に深められたのではないかと思います。

 次回は「医療機器開発のマーケティング」、「患者適合型カッティングガイドとインプラントの開発」、「けいれん性発声障害の患者さんのための新規医療機器『チタンブリッジ』の開発」、「ITとブロックチェーン技術で実現する持続可能な医療」、「AI内視鏡で実現する医療の未来」、「日本発の手術支援ロボットシステム」について学びます。実際に医療機器を開発し、臨床現場に届けるというプロセスを実践されている先生方をお招きし、開発に至ったきっかけ、コンセプトづくりから開発内容、承認そして保険適用までのご苦労、さらに今後の展望など、これまで学んできた医療機器開発の集大成としてご講義いただきます。

5月から始まりましたMDDコースも最終日となります。最後までよろしくお願い申し上げます。

メディカルデバイスデザインコース2022運営チーム