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【MDD Diary 2022】#1 (2022/05/28)

2022-05-30

本日よりメディカルデバイスデザインコース2022が開講いたしました。

初日はModule1 〜医療機器開発のための臨床医学〜第1日目~でした。

開講に先立ち、当センターの貴島晴彦センター長より開講の挨拶、続いて本コース代表教員の岡山慶太先生よりMDDコースの目的・意義についてイントロダクションが行われました。

1限目 消化器内視鏡機器の役割と今後の展開
林義人 先生
大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学

内視鏡は全悪性腫瘍の半数を占める消化器癌に対して診断と治療の役割を担っています。NBI(Narrow Band Imaging)、
RDI(Red Dichromatic Imaging)といった異なった波長の光を用いて血管を見やすくする技術が臨床現場で活用されていることがわかりました。また、がんの浸潤度を確認する超音波内視鏡検査、AI搭載の内視鏡など年々進化する技術についてもご紹介いただきました。後半は、消化器各論として食道癌、胃癌、大腸癌における内視鏡の役割について教えていただきました。ESD(Endoscopic Submucosal Dissection)と呼ばれる内視鏡的粘膜下層剥離術は日本で生み出され世界に広がった手術法です。実際の手術動画をまじえて詳細にご教授いただきました。今後もさらなる診断能の向上、より低侵襲かつ効率的な検査・治療が行えるといった発展が求められていることがわかりました。

2限目 循環器医療と医療機器
坂田泰史 先生
大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学

循環器内科学の過去から未来について「低侵襲」と「可視化」をキーワードにお話しいただきました。心エコーに関して、2Dから3Dへ進化し可視化が進んだことで心臓の定量的変化や運動異常の評価をより正確に行うことができるようになりました。さらに弁膜症に対する手術も経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI:Transcatheter Aortic Valve Implantation)や、Mitra Clip(経皮的僧帽弁接合不全修復術)の開発が進んだことで低侵襲化が進んでいます。心臓突然死を予防するICD(植込み型除細動器)では、デバイスが感染した場合に備え、従来の血管内ではなく、皮下に植え込むタイプのもの、さらには、そもそも植え込みしないという究極の低侵襲を実現するWCD(着用型自動除細動器)が開発され、実際に使用されていることを教えていただきました。今後はIoTを利用した遠隔システムの開発も期待されていることがわかりました。

3限目 麻酔集中治療と医療機器
坂口了太 先生
大阪大学医学部附属病院集中治療部

麻酔集中治療という観点から、現代の医療機器に関する基礎知識を、脳神経系・気道呼吸系・循環器系という三つの分野を中心にして解説していただきました。麻酔手術の際には、患者さんの麻酔深度をモニタリングするための機器(BISモニター)や、近赤外光によって組織の酸素濃度を計測する装置が重要です。COVID-19の流行によって非常に身近になったパルスオキシメーターやECMO(体外式膜型人工肺)の原理についても教わりました。ECMOの問題点や合併症を指摘してくださったことで、今後の人工呼吸器が克服するべき点が明確になりました。COVID-19パンデミックの初動対応で培った経験についてもお話しいただきました。非常に緊迫感のある内容でした。ICUと病院の規模の関連など、日本の医療制度の課題にも鋭く切り込む、学びの多い講義でした。

4限目 小児外科の臨床現場と医療機器
田附裕子 先生 
大阪大学大学院医学系研究科外科学講座小児成育外科学

デバイス開発や実際の使用の観点から、小児外科領域における課題と将来の展望について教えていただきました。子どもは成人よりも呼吸や脈が速く、また体組織も脆いため、治療の際には成人とは全く違った配慮が必要になります。外科手術を行う際に、小児専用の医療機器が存在しないケースも珍しくありません。したがって、既存の成人用のデバイスを工夫して活用する臨機応変さも要求されるとのことです。例として、臍帯ヘルニアの治療シーンを供覧いただき、この現状についてご教示いただきました。設備や物品というハード面だけではなく、小児外科手術に対応できる人材育成など、ソフト面の重要性がわかりました。小児外科は、患者さんの絶対数が少ないため、メーカーから注目を得られにくい状況にありますが、未来を創る子どもを守るという社会的意義が大きい分野であるといえます。

来週は「呼吸器外科診療の実際」、「放射線治療で求められる医療機器」、「糖尿病の治療 〜治療の現状と根治に向けた取り組み〜」、「人工関節の臨床現場と医療機器」について学びます。
10月まで半年間どうぞよろしくお願い致します。

メディカルデバイスデザインコース2022運営チーム