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【MDD Diary 2022】#12 (2022/09/10)

2022-09-10

本日はModule3 〜医療機器開発のための機器実習〜最終日~でした。

1限目 自動吻合器・縫合器・エナジーデバイス
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社メディカルカンパニー

組織の切断と断端の閉鎖を自動で行う自動縫合器についてご講義頂きました。自動縫合器が110年前に初めて開発されていたというのは驚きでした。切離したい組織を挟んで圧縮し、ステイプルという留め具を打針すると同時にナイフを走らせることで縫合切離がなされます。実習では、自動縫合器に加え、同様の原理を用いて血管や腸などの筒状組織を吻合(ふんごう)する自動吻合器についてもご紹介いただきました。また、ジュール熱や超音波振動で生じる摩擦熱を用いて膜や血管等の組織を凝固・切離するエナジーデバイスについてもご説明いただきました。熱による合併症を防ぐため、機器の選択や加えるエネルギー量の制御が重要です。実習ではモデルを用いて、超音波デバイス、アドバンスドバイポーラで実際に切離する場面を見せていただきました。

2限目 陰圧維持管理装置 ~NPWT~
スミス・アンド・ネフュー株式会社

創傷を密閉し、持続的に陰圧を加えて創傷治癒を促進させる局所陰圧閉鎖療法(NPWT)に用いられる陰圧維持管理装置についてご紹介いただきました。陰圧を与えると創の収縮補助、細胞の分裂や活性化の促進、血流の増加、加えて細菌・滲出液・スラフ(壊死組織)の除去により炎症が軽減し、治癒が促進されます。これまで創の治療状況のみに注目されていた陰圧維持管理装置でしたが、医療現場のニーズを追求し、患者さんのWell-beingが向上する親しみやすいデザインをデザイナーと共に設計されたそうです。また、創傷治療の可能性を広げる次世代の創傷機器PICOは手のひらサイズの軽量な設計で、外来管理が可能となっています。実習では、RENASYSやPICOで陰圧を加える様子を見せていただきました。吸引圧は80~100mmHgですが意外と痛みはなく、手全体に付けた場合も、真空パックのように固くなるわけではなくある程度は動かせるそうです。

3限目 経皮的心肺補助システム(PCPS/ECMO)
テルモ株式会社

重症呼吸不全をきたした患者さんの肺機能のサポートや、急性心筋梗塞などで心機能と肺機能の両方をサポートするために用いられる補助循環システムのECMO:エクモ(体外式膜型人工肺)についてご説明いただきました。ECMOに用いられている遠心ポンプの原理や特徴といった技術的な部分から、適応疾患や管理上の注意点といった臨床的な内容まで、幅広く学びました。実習では、コロナ禍においてよくメディアでも出てくるECMOの仕組みを知ることができました。さらに、ECMOの基本的な操作を始め、脱血不良や気泡混入といった臨床現場で起こり得るトラブルを再現していただき、機器側のリスクマネジメントについても学ぶことができました。

4限目 人工呼吸器
コヴィディエンジャパン株式会社

酸素療法のひとつである人工呼吸器についてご紹介いただきました。はじめに呼吸についての生理学や人工呼吸器の原理、人工呼吸器を理解する上で必要な基礎的知識について学びました。続いて、日本における人工呼吸器に関する法律や、市場規模、集中治療室の現状等、臨床現場のニーズとの関連についてもご教示頂きました。実習では、人工呼吸器の代表的な3つの換気モードの特徴について、ディスプレイに表示されるグラフィック波形の見方を含めて解説していただきました。続いて人工肺シミュレータを用いて、人工呼吸器と自発呼吸との非同調(ファイティング)や、無呼吸に対するバックアップ換気の作動を再現していただきました。挿管チューブと呼ばれる管を気管に挿入する場合と、新型コロナウイルス感染症で話題となった、高流量酸素を鼻から流すハイフローセラピー、マスクやネーザルカニューラを用いた非侵襲的な酸素療法の違いについてもご紹介いただきました。

5限目 医療機関における医療機器の管理
楠本繁崇先生 大阪大学医学部附属病院医療技術部臨床工学部

医療機器を取り扱うスペシャリストである臨床工学技士の視点から、実際の臨床現場での医療機器の管理について、大阪大学医学部附属病院臨床工学部の楠本繁崇先生にご講義頂きました。臨床工学技士の業務には、人工心肺装置や人工透析機器といった生命維持管理装置のほか医療機器全般に関する操作業務や、院内医療機器の保守点検などがあります。日常点検には始業点検、使用中点検、終業時点検があり、外観や機能に加え、患者状態の確認や消毒、滅菌も行われていました。医療機器を扱う医療従事者に対して安全使用のための研修を実施することや、インシデント報告から情報収集を行い、改善のための方策を計画することなど、医療機器を管理するだけでなく、多岐にわたる業務が行われていることを知ることができました。

6限目 超音波診断装置
株式会社フィリップス・ジャパン

超音波診断装置について超音波の基礎、3Dエコー、超音波検査の解析の三つに分けてご説明いただきました。超音波装置はパルス反射法という原理を使ってエコーの画像を描いています。体内情報を知ることができますが、レントゲンやCTのように被爆侵襲はなく、人体に無害な検査であることがメリットになります。3Dエコーはスライス断面を重ね合わせて立体画像にするだけでなく、Anatomical Intelligenceと呼ばれる自動解析技術も付加されていました。エコー検査の課題として検者間誤差がありますが、AIの技術を使用することによって、その弱点を補うことができるようになってきています。実習では実際に心臓や肝臓にエコーを当てながら、見えている場所や各モードについて、非常に分かりやすくご説明いただきました。

7限目 分娩監視装置・胎児振動刺激装置・ドプラ胎児診断装置
トーイツ株式会社

分娩監視装置、胎児振動刺激装置、ドプラ胎児診断装置について、開発史と原理についてご講義いただきました。分娩監視は異常を確定診断することではなく、胎児が健康であるかを確認することが目的です。胎児が健康であるかは、胎児の血液循環(心拍数)と母体の陣痛(強度)を観察することで分かります。技術の進歩により、母体の酸素飽和度や血圧、胎動についても記録することができるようになり、母児を総合的に観察できるようになっていました。実習では、分娩監視装置の他、胎児の状態を観察する検査(NST: Non-Stress Test)において、振動で赤ちゃんを覚醒させるための胎児振動刺激装置、母体の心音や胎動で分かりづらかった胎児の心音を正確に聴取できるドプラ胎児診断装置についても見せていただきました。

8限目 黄疸計
コニカミノルタ株式会社

経皮黄疸計について、開発の経緯、黄疸のメカニズムと臨床での使用、黄疸計での測定の原理についてご紹介いただきました。黄疸計は、当時カメラメーカーであった同社(当時はミノルタ社)の露出計技術者が技術応用を進める中で誕生したそうです。国内の分娩を扱っている医療機関では、同社がほぼ100%近いシェアを持っており、助産院等でも必須アイテムとして使用されています。出生時の黄疸は、生まれたときに胎児ヘモグロビンから通常のヘモグロビンに置き換わっていく過程において、胎児ヘモグロビンが壊されることで起こる生理的な現象です。しかし、血中のビリルビンが過剰になってしまうと、脳にビリルビンが沈着し(核黄疸)、脳性まひや死に至ることがあるため、モニタリングが必要です。実習では実際の測定を見せていただきましたが、非常に簡便な操作で赤ちゃんにも苦痛を与えない、非常に画期的なデバイスであると感じました。

次回はいよいよ最後のModule4が始まります。

ビジネスとしてのアウトプットを目指す医療機器開発を進めるために、企業などで実際に医療機器開発を実践してきた専門家から、自己の経験をもとに成功のポイント、失敗談、危機をどのように乗り越えたかについて学びます。

初日は、「我が国の医療機器開発環境の現況と近未来  -医工・産学官連携による医療機器のイノベーション戦略-」、「医療機器開発から販売までの取り組み~医工連携と参入課題への対応~」、「看護の立場から見る医療現場と医療機器~超高齢時代の病院と認知症ケアの現場から~」、「小児在宅医療のための国産高頻度人工呼吸器(排痰補助装置)の開発・承認・販売までの軌跡」、「日本発の新しいタイプの外科用止血材の開発と実用化」、「医療機器開発プロジェクトにおける事業計画」について学びます。

メディカルデバイスデザインコース2022運営チーム