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【MDD Diary 2023】#11 (2023/09/09)

2023-09-10

本日はModule3 〜医療機器開発のための機器実習〜3日目~でした。

1限目 内視鏡機器
オリンパスマーケティング株式会社

胃や大腸など人体の至る所に適用される内視鏡機器について、開発の歴史、基本的な構造・種類、最新の技術について説明していただきました。内視鏡機器は日本において発展している医療機器です。挿入される本体の外径は技術の進歩によって鉛筆ほど細くなっており、検査の苦痛が抑えられています。実習では、実際の内視鏡機器を用いてスネアによる内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic Mucosal Resection)や、高周波ナイフを用いた内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)の手技を見せていただきました。内視鏡は診断のみならず治療ができるところまで進化しており、「切らずに直す」という概念を確立させた日本が世界に誇れる技術です。これからAIの発展などにより内視鏡機器の更なる飛躍に注目していきたいと感じています。

2限目 鏡視下手術機器
オリンパスマーケティング株式会社

1限目の内視鏡機器の講義に続き、内視鏡下外科手術についてご教授いただきました。内視鏡を用いた手術は、開腹手術と比べて傷が小さく痛みが少ないなどのメリットがある半面、手術操作が複雑で習熟した技術が求められることや、必要な機材が複数あるといったデメリットもあります。術野はカメラ映像に依存するため、3Dや4K、IRなどより術者が術野を把握しやすくする映像技術が導入されています。実際のシミュレーションでは、外科医が皮膚を切開し、トロッカー(ビデオスコープや鉗子を体腔内へ挿入するために用いるもの)や手術器具を挿入し、縫合する操作を見せていただきました。今後はAIやロボット手術が台頭していくことも予想されますが、内視鏡手術の発展も楽しみです。

3限目 自動吻合器・縫合器・エナジーデバイス
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社メディカルカンパニー

組織の切断と断端の閉鎖を自動で行う自動縫合器についてご講義頂きました。自動縫合器が110年前に初めて開発されていたというのは驚きでした。切離したい組織を挟んで圧縮し、ステイプルという留め具を打針すると同時にナイフを走らせることで縫合切離がなされます。実習では、自動縫合器に加え、同様の原理を用いて血管や腸などの筒状組織を吻合(ふんごう)する自動吻合器についてもご紹介いただきました。また、ジュール熱や超音波振動で生じる摩擦熱を用いて膜や血管等の組織を凝固・切離するエナジーデバイスについてもご説明いただきました。熱による合併症を防ぐため、機器の選択や加えるエネルギー量の制御が重要です。実習ではモデルを用いて、超音波デバイス、アドバンスドバイポーラで実際に切離する場面を見せていただきました。

4限目 手術用ロボット手術ユニット
インテュイティブサージカル合同会社

手術支援ロボットのDa Vinciサージカルシステムについて、その拝見、開発の歴史、最新事情までをご講義いただきました。手術の現場はこの数十年で激変を遂げたと言っても過言ではないと思います。すなわち開腹手術→腹腔鏡→ロボット支援手術という大きな流れがあります。日本では、2012年に初めて前立腺悪性腫瘍手術で保険適用されましたが、2018年頃から保険適用範囲が拡大しており、2022年においては3術式において、従来手術に比べて保険点数が追加で算定されています。これは、従来の手術方法よりもロボット支援手術の方が臨床的メリットがあるという評価を得たということを意味しており、単に従来の手術法をロボットで代替したということを超えるまでになったと捉えることができると思います。すでにいくつかの企業が参入しておりますが、研究開発が進むことで、さらに臨床現場に恩恵を与えるものになればと考えます。

5限目 ペースメーカー・ICD・CRTD・プログラマー
日本メドトロニック株式会社

ペースメーカーの歴史をメドトロニック社(世界初の電池式心臓ペースメーカーを開発し社会実装)の歴史とともにご講義いただきました。黎明期のペースメーカーはペーシングを行うのみでしたが、時代の流れとともに患者さんの疾患に合わせて様々な調整ができるように加速度的に発展していきました。加えて、電気ショック機能を備えたICD(植込み型除細動器)や、心臓の自律的なポンプ機能を活性化させる治療法であるCRT(心臓再同期療法)について紹介していただきました。リード抜去術の方法や、それを可能にする医療機器についても概観しました。ペースメーカーの技術を応用した新たな心臓植込み型デバイスが出現しています。また、遠隔モニタリングシステムの活用により患者さんの通院回数を減らすことができます。最先端の技術が医療を新たな次元へと引き上げることが期待されています。

6限目 リードレスペースメーカー
日本メドトロニック株式会社

近年興隆しつつあるリードレスペースメーカーについてご講義頂きました。従来のペースメーカーにはリード線が必須でしたが、感染により取り出さなければならなくなった際のリスクが大きいという最大の課題がありました。これ以外にも、体内のリード線が血管と癒着することで静脈が閉塞する、ジェネレーターを皮下に植え込む際に血腫が生じるなどということが以前から問題となっていました。患者さんの負担となる合併症を避けるために、リードレス型という新しいペースメーカーが生まれ、臨床現場に投入されています。その大きさは十円玉程度であり、最新技術の結晶と呼ぶべきものです。さらに侵襲性の低さ、処置時間の短縮、外観の目立たなさという大きなメリットが存在します。実習ではカテーテルを用いてリードレスペースメーカーを心室中隔に留置する手技を見せていただきました。

7限目 着用型自動除細動器(WCD)
旭化成ゾールメディカル株式会社

着用型自動除細動器(WCD)の機能や構造について解説していただきました。これは前述した体内植込み型の除細動器とは異なり、心臓突然死のリスクがありながら植込み型除細動器をすぐに適用できない患者さんや、心筋梗塞直後など一時的に致死性不整脈のリスクが高い患者さんを対象に使用するものです。WCDは症状の検出・治療・記録という三つの機能を一つの装置で行うことができます。WCDを用いて除細動を行うためには患者さんとデバイスの間に通電性を確保する必要がありますが、そのためのジェル放出のプロセスに火薬が使われていることには驚きました。エアバックと同じ原理だそうです。一見、電極が背中側や胸側に入っていたり、しっかり密着させるように着用しなければならないなど、少し窮屈な印象を受けましたが、実際に着用してみると、見た目よりもほとんど圧迫感を感じさせない構造になっており、患者さんの日常生活を妨げずに設計されたデバイスであると感じました。

5~7限目 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学
中野 智彰 先生

5~7限では不整脈治療について、臨床医の観点から治療デバイスにまつわる解説をしていただきました。ペースメーカーに関しては、感染した場合の治療法について伺いました。体内に入れた異物に感染が起きると、薬による治療のみではコントロールが難しい場合が多く、基本的にデバイス自体を取り除く必要があります。デバイスの抜去は容易ではなく、リードと血管との癒着を取り除きながら剥離する必要があり、大きなリスクを伴います。感染した場合のリスクを抑える別のアプローチとして、皮下植込み型除細動器(S-ICD)についても解説いただきました。通常のICDとは異なり、リードを血管内や心臓に入れないため感染症のリスクを下げることができるなどのメリットがありますが、一方でペーシングができないなどのデメリットもあるそうです。最後に不整脈治療の概観についてご教示いただきました。これまで様々な不整脈治療デバイスが登場してきましたが、どの疾患に対してどのデバイスを用いて治療が行われるかについて知識を整理することができました。

8限目 黄疸計
コニカミノルタ株式会社

経皮黄疸計について、開発の経緯、黄疸のメカニズムと臨床での使用、黄疸計での測定の原理についてご紹介いただきました。黄疸計は、当時カメラメーカーであった同社(当時はミノルタ社)の露出計技術者が技術応用を進める中で誕生したそうです。国内の分娩を扱っている医療機関では、同社がほぼ100%近いシェアを持っており、助産院等でも必須アイテムとして使用されています。出生時の黄疸は、生まれたときに胎児ヘモグロビンから通常のヘモグロビンに置き換わっていく過程において、胎児ヘモグロビンが壊されることで起こる生理的な現象です。しかし、血中のビリルビンが過剰になってしまうと、脳にビリルビンが沈着し(核黄疸)、脳性まひや死に至ることがあるため、モニタリングが必要です。実習では実際の測定を見せていただきましたが、非常に簡便な操作で赤ちゃんにも苦痛を与えない、非常に画期的なデバイスであると感じました。

次回はModule3最終日です。「経皮的心肺補助システム(PCPS/ECMO)」、「人工呼吸器」、「陰圧維持管理装置(NPWT)」、「医療機関における医療機器の管理」、「超音波診断装置」、「分娩監視装置・胎児振動刺激装置・ドプラ胎児診断装置」、「ポータブル超音波機器」、「義肢装具」が登場します。

メディカルデバイスデザインコース2023運営チーム