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【MDD Diary 2023】#13 (2023/09/23)

2023-09-26

本日よりModule4 〜医療機器開発の実践〜が始まりました。

ビジネスとしてのアウトプットを目指す医療機器開発を進めるために、企業などで実際に医療機器開発を実践してきた専門家から、自己の経験をもとに成功のポイント、失敗談、危機をどのように乗り越えたかについて学びます。

1限目 我が国の医療機器開発環境の現況と近未来
-医工・産学官連携による医療機器のイノベーション戦略-
妙中 義之
先生
国立循環器病研究センター

日本医療研究開発機構(AMED)は、AI・IoT技術、およびロボティクスを駆使して、医療機器とヘルスケアの分野での診断・治療の向上や、予防とQOLの最適化を追求する研究開発活動を積極的に進めています。

プログラムディレクターの立場から、医療機器開発のエコシステム体制の整備状況や、医工連携イノベーション推進事業により上市された製品数や売り上げ金額の推移、大企業だけでなく中小企業の医療機器製品化支援等、日本における医療機器開発の最新の情報を数多くご紹介いただきました。

事業化を成功に導くには、特に試作を始める前の医療現場におけるニーズ・課題の洗い出しや、知財・薬事・保険償還等の調査など事業化の戦略を確実に固めておくことが非常に重要であるとご教授いただきました。

2限目 医療機器開発から販売までの取り組み
~医工連携と参入課題への対応~
保坂 誠 先生
山科精器株式会社

中小企業の医療機器業界への新規参入から上市に至るまでについて、ご経験を踏まえながらご紹介いただきました。

新規参入にあたっては、公的支援や産官学連携を活用した開発や、推進の動機付けや資金調達のサポートを得ること、自社製品を開発できることや医師のニーズと自社のシーズをマッチングすることができることなどのメリットが得られるとのことでした。一方で、開発に長期間かかる製品では世の中の技術トレンドが変化することにより販売にまで至らないことも多いそうです。

ものづくりやマーケティングは、実際やってみないと分からないことが多く、失敗を繰り返すことが成功に近づくために重要であることを教えていただきました。

3限目 日本発の新しいタイプの外科用止血材の開発と実用化
前田 広景 先生

三洋化成工業株式会社

胸部大動脈置換術等で用いられる止血材の開発について、医療機器業界への新規参入から上市までの道のりをご紹介いただきました。

苦労したことについては薬事を挙げられており、どんな薬事業務があるかは分かるが、実際具体的に何をすればよいのかアクションに移すことができないという壁があったことをお話しいただきました。新規参入ながらも、管理が最も難しく臨床試験も必要なクラスⅣのカテゴリーで、かつ新医療機器として市販後調査の義務があるという非常に難易度の高いハードルを超え、時間はかかりながらも粘り強く着実に進めてこられたとのことです。

欧州では昨今、MDDからMDRへと規制の強化がなされており、撤退する事業者も少なくない中で、CEマークを維持されており、強固な体制を作り上げられてきたことがうかがえます。まさに日本から世界へ羽ばたいた医療機器ということができると思います。

4限目 細菌・ウイルスの迅速診断を実現した新規IVD機器の開発
永井 秀典 先生

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
先端フォトニクス・バイオセンシング
オープンイノベーションラボラトリ(阪大OIL)

産業技術総合研究所が研究してきた技術の中でも、鳥や虫が媒介するウイルスを早期に発見することができる「高速リアルタイムPCR」について、事業化までのご経験を解説していただきました。

産官学連携の実際には多くの障壁があります。技術を素早く社会実装するため、産総研発のベンチャー企業を設立されました。ベンチャー企業であれば、製品開発から事業化まで主体的に関与することができます。ビジネスモデルを明確にして研究開発を行うことで、顧客からの信頼を獲得しやすくなるという利点もあります。

ビジョンを持つこと、信頼できるパートナーを見つけることなど、非常に含蓄に富んだ助言をいただき、医療機器開発の事業化におけるヒントを数多く学ぶことができました。

5限目 国産高頻度人工呼吸器(排痰補助装置)の
開発から上市までの軌跡
早川 剛一 先生

株式会社IBS

「国産高頻度人工呼吸器(排痰補助装置)の 開発・承認・販売までの軌跡」というテーマでご講義いただきました。高頻度人工呼吸器「PAC-35」の実際の開発プロセスを参照しながら、その際に直面した課題や採用した対応策などについて伺うことができました。

開発する際に直面した最も大きな課題は、医療現場からの要求をどのように製品に反映させるのかということでした。デバイス開発の際に発生するあらゆる課題を乗り越えるには、開発・医療・規格対応など、あらゆる現場を総合的に俯瞰することが欠かせません。

「医療機器開発は、一社だけでできるものではありません。少しでも多くの力を合わせてエコシステムを形成し、よりよい医療機器開発のための環境を整えましょう」という締めくくりのお言葉には、胸が熱くなりました。

6限目 医療機器開発プロジェクトにおける事業計画
吉田 智之 先生

株式会社ばんそう

医療機器開発を実際に事業化する際に注意しておくべき点について、投資家としての視点から解説していただきました。

ビジネスとして成功するためにはリーダーの志が一番重要であることや、市場の魅力、競争優位性、収益性などについて目指すべき水準などを教えていただきました。また、事業計画に見られる問題点についても具体的な事例をご紹介いただき、どのように計画すべきかの指針を内容構成やチェックリストを用いてご説明いただきました。

デバイスの開発に熱中していると、「この製品は市場においてどのように評価されるのか」という点をつい忘れそうになることがあります。新製品開発への熱意や使命感を捨てることなく、それでいて冷静に収益を上げるための戦略を考えることが求められています。

事業化戦略については次回のグループワーキングで実践していきます。これに先立ち財務会計の基礎についてもご講義いただきました。

次回は「Group Working – Ⅵ 医療機器開発のための事業化戦略」、「医療機器開発と保険償還」について学んでいきます。

メディカルデバイスデザインコース2023運営チーム