【MDD Diary 2023】#16 (2023/10/21)
2023-10-28
本日はModule4 〜医療機器開発の実践〜4日目~、MDD2023レギュラープログラムの最終日でした。
1限目 医療機器開発のマーケティング
宮坂強 先生 サムエルプランニング株式会社
医療機器開発や事業化のマーケティングの役割について、実際に経験された事例をまじえながらご講義いただきました。
医療機器開発では各フェーズで様々な課題に直面します。医療現場の課題を抽出・評価し、開発しようとしている医療機器が課題を解決できるのか、どんな価値を提供できるのか、どういった市場で売れるのか、これからどういった戦略で販売していくのかを考え、事業計画を立案し、事業戦略を立てるというプロセスには、マーケティングが非常に重要な役割を果たすことを教えていただきました。
講義後半では、実際にマーケティング主導で市場開拓・事業化した医療機器の例として、血管内治療の末梢血管領域への展開について教えていただきました。
2限目 アルツハイマー病における血液バイオマーカーの確立
岩永 茂樹 先生 シスメックス株式会社
認知症の中でも最も多いアルツハイマー型認知症に対する全自動免疫測定装置についてご紹介いただきました。アルツハイマー型認知症では最も早く脳に蓄積するアミロイドβというタンパク質を早期に除去していく治療が重要になりますが、そのためにはアミロイドβの蓄積状態を早期に正確に検出する必要があります。従来アルツハイマー型認知症が疑われた場合、高価で精密な検査も行われていましたが、それらのプレスクリーニングとして、血液から簡便に測定できる全自動免疫測定装置を使用することより、身体的負担やコストを削減しながらも鑑別が行えるようになったそうです。
今後はこの技術を用いて中枢神経系疾患なども鑑別できるような検査の実現に向けた、新たな挑戦もなされていることもご紹介いただきました。
3限目 逆算して開発をスタートした新規クラスIV
心臓血管修復パッチ
根本 慎太郎 先生
大阪医科薬科大学 外科学講座胸部外科学教室
先天性心疾患治療で、血管の直径を広げる際に欠損部を補う心・血管修復パッチについて、詳細な開発プロセスを踏まえながら解説いただきました。
出口戦略はよく聞く言葉ですが、開発から事業化までのすべての過程を知っておくことが良いスタートを切るためには必須です。製品が満たすべき要件を、最終段階から考えることで、自ずと製品の性能や製造方法、材料などの輪郭が決まり、一緒に走るためのプレーヤーが決まってきます。
医療機器開発を成功へと導くためには、開発者が出口戦略までに必要なすべての知識を持ち、産官学のマネージャー兼プロデューサーである覚悟を決めることが、円滑にプロジェクトを進めるために非常に重要であるということを教えていただきました。
4限目 患者適合型カッティングガイドと
インプラントの開発・実用化
村瀬 剛 先生 ベルランド総合病院
従来の治療法では正確性に限界があった上肢骨折後の変形癒合に対する新たな治療法として「カスタムメイドガイド」や「カスタムメイドプレート」を自ら開発され、薬事承認・保険適用を経て社会実装されたお話を伺いました。
自らの体験談として、開発や実用化に要する資金を獲得をすることが難しいということで、苦労されて研究費を獲得し、さらに学術的信頼を得るためにも大変尽力されたということもわかりました。
BoneCloudというシミュレーション支援・データ管理クラウドシステムの構築にも取り組んでおられ、今後ビックデータやAIを利用して治療効果の向上を目指されているという貴重なお話しも伺うことができました。
5限目 AI内視鏡で実現する医療の未来
三澤将史 先生
昭和大学横浜市北部病院 消化器センター
「AI内視鏡で実現する医療の未来」というテーマでご講義いただきました。「AIは人間を超えられるか?」という問いに対し、三澤先生はAI技術はあくまで人間の医師による診療を支援するものであると答えます。人間の能力には限界がありますが、その限界をAIの補助によって乗り越えさせることで、より正確な診療が可能になるとのことでした。開発したAIが薬機法による承認に至るまでの過程に関するお話も興味深いものでした。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)に積極的に相談することで、審査する側からの意見を聞くことができるようになり、その結果医師のニーズに合った機器を作りやすくなります。このことを先生は「適切な評価方法を審査する側と一緒に探っていくイメージ」と簡潔に表現しておられました。
6限目 けいれん性発声障害の患者さんのための新規医療機器
『チタンブリッジ』の開発
讃岐 徹治 先生
名古屋市立大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科学
先駆け審査指定制度で初めて承認された医療機器「チタンブリッジ」の開発から薬事承認・保険収載に至るまでの過程についてご講義いただきました。
原因不明で難治疾患であるけいれん性発声障害の治療に用いるチタンブリッジの開発は、治験が必要であるのにも関わらず、稀少疾患であることもあり企業治験が困難であったことから、臨床医であった先生自ら医師主導治験を行われました。チタンブリッジは特定保険医療材料の形で保険適用されているだけでなく、その術式も新規医療技術の形でも保険適用されています。
現場のニーズを汲み取って改良を繰り返しながら治験・承認申請・薬事承認・保険適用には長い時間と苦労があったと思いますが、こうした道のりを経て実用化された医療機器によって、多くの患者さんが苦しみから救われていることは本当に素晴らしく感じます。
講義終了後に、オンラインでMDD2023終了式が行われました。8回にわたるグループワーキングの結果発表と表彰状授与が行われました。続いて、当センター長の貴島先生より受講生へ修了証が授与され、受講生代表の方からご挨拶をいただきました。
最後は恒例の記念撮影を行い閉幕しました。2016年に始まったMDDコースも今年で延べ800名を超える方に受講いただいております。MDDコースをご受講いただきました皆様、そしてご講義いただきました先生方、ご協力いただきました医療機器メーカーの皆様、あらためまして感謝申し上げます。皆様の益々のご活躍をご祈念申し上げます。
メディカルデバイスデザインコース2023運営チーム