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【MDD Diary 2023】#3 (2023/6/10)

2023-06-17

本日はModule1 〜医療機器開発のための臨床医学〜3日目でした。

1限目 呼吸器外科診療の実際
新谷 康 先生
大阪大学大学院医学系研究科呼吸器外科学

呼吸器外科とは何かをはじめ、肺がんの症状や治療法、肺移植や期待される医工学技術についてご紹介いただきました。

近年、肺がんの外科手術では治療機器の性能向上や手術支援ロボットの開発により、開胸を伴わない低侵襲手術が多くの割合を占めるようになりました。また、従来標準的だった肺葉を取り除く手術(葉切除)に代わり、可能な限り肺を温存する縮小手術が増えています。放射線療法や化学療法の技術も進歩しており、さらに手術単独ではなくさまざまな治療法を組み合わせることで肺がん根治を目指す集学的治療法が行われています。

呼吸器外科では進行性で内科的治療が限界の肺疾患に対する肺・心肺移植も行われています。手術件数は年々増加している一方で、治療コストやドナーの確保に課題があります。

今後、技術開発によりAI診断やがんの簡易検知、支援ロボットやVRを利用した手術環境の向上や外科医の教育体制の発展などが期待されています。

2限目 循環器内科学の現状と課題~循環器医療と医療機器~
坂田 泰史 先生
大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学

循環器内科学における医療機器の位置づけから今後向き合うべき課題についてお話しいただきました。

循環器内科学は心不全と心原性突然死を予防・治療することを目的としており、先人たちの心電図やレントゲン写真による「可視化」や、心臓カテーテルを用いた「低侵襲」な治療法の開発は、偉大な業績として現在も残っています。

心エコーに関しては、2Dから3Dへ進化し可視化が進んだことで心臓の定量的変化や運動異常の評価をより正確に行うことができるようになりました。さらに弁膜症に対する手術も経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI:Transcatheter Aortic Valve Implantation)や、Mitra Clip(経皮的僧帽弁接合不全修復術)の開発が進んだことで低侵襲化が進んでいます。心臓突然死を予防するICD(植込み型除細動器)は、デバイスが感染した場合に備え、従来の血管内ではなく皮下に植え込むタイプ、さらには、そもそも植え込みしないという究極の低侵襲を実現するWCD(着用型自動除細動器)が開発され、実際に使用されていることを教えていただきました。今後はIoTを利用した遠隔システムの開発も期待されていることがわかりました。

3限目 循環器疾患外科治療~心臓血管外科手術と医療機器~
吉岡 大輔 先生
大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科学

心臓血管外科における治療と医療機器、そして医療現場のニーズから医療機器を作るための活動などについてご講義いただきました。

まず日本における開心術の歴史について、低体温法から体外循環にいたるまでの黎明期をご紹介いただきました。技術の発展に伴い開心術数は増加しています。

講義前半では心臓の解剖に始まり、冠動脈疾患、弁膜症、大動脈疾患の概要と治療について手術映像を解説いただく形で学びました。3D内視鏡を用いた低侵襲心臓外科手術(MICS)、弁膜症に対する低侵襲ロボット手術なども行われていました。

大動脈弁狭窄症に対してはカテーテルを用いて弁を植え込む低侵襲の手術手技の普及に伴い、手術全体に対するカテーテル手術(TAVI)の件数が、外科的大動脈弁置換術(SAVR)の件数を上回るまでになっているそうです。一方で、外科的手術の件数自体は維持されており、これまで手術ができなかった患者さんに、新しい選択肢が提供されるようになったということが窺えます。人工弁留置後に再び人工弁を留置するValve-in-Vlaveなどの症例数も増えてきており、さらに人工弁の開発競争が進んでいるそうです。

心臓移植では長距離搬送による時間経過が問題になりますが、心臓を動かしながらなるべく新鮮な心臓を届けるための機器開発も米国では進められていることもご紹介いただきました。

4限目 糖尿病治療と医療機器
~最新の栄養疫学エビデンスとその臨床応用
馬殿 恵 先生
大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学

ライフスタイル医学寄附講座学

現在行われている糖尿病の治療、疫学研究のエビデンスから社会実装に求められるものなどについてご講義いただきました。

まずは糖尿病の病態、合併症についてお話しいただき、血糖コントロールを行うための検査や治療について解説いただきました。従来から用いられている血糖自己測定(SMBG: Self Monitoring of Blood Glucose)に加え、近年では皮下組織間質液のグルコース濃度を利用した持続血糖測定(CGM: Continuous Glucose Monitoring)機器なども出てきており、より血糖変動の状況がわかるようになってきています。またこれにより生理的なインスリン分泌を再現するような治療を、インスリンポンプと組み合わせることによって実現できるようにもなってきているとのことです。

栄養疫学研究からの知見から、より詳細なデータに基づき食事の質をコントロールすることが、糖尿病の予防・合併症進展の抑制に寄与することが明らかになってきているそうです。エビデンスに基づく生活習慣改善プログラムについてもご紹介いただき、プログラム医療機器開発へのアイデアもいただくことができました。

次回は「精神医学の臨床と医療機器」、「産科婦人科領域の臨床現場と医療機器」、「小児外科の臨床現場と医療機器」、「救命救急と医療機器」について学びます。

メディカルデバイスデザインコース2023運営チーム