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【MDD Diary 2024】#1 (2024/6/1)

2024-06-7

本日よりメディカルデバイスデザインコース2024が開講いたしました。

初日はModule1 〜医療機器開発のための臨床医学〜1日目でした。

開講に先立ち、当センターの貴島晴彦センター長より開講の挨拶、続いて本コース代表教員の岡山慶太先生よりMDDコースの目的・意義についてイントロダクションが行われました。

1限目 人工関節の臨床現場と医療機器
濱田 英敏 先生
大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(運動器医工学治療学講座、整形外科)

関節の構造や病態についての詳細な説明を受けました。関節は骨と骨をつなぐもので、滑膜、関節液、軟骨、関節包などの構造要素から成り立ちます​​ 。軟骨は衝撃を吸収し、滑らかな動きを提供しますが、血管がないため再生能力が乏しく、一度障害されると治りにくい特徴があります​​ 。

人工関節による治療では、特に人工股関節の製造において、股関節のカップ、ステム、骨頭の各要素に対して、耐久性、靭性、耐腐食性、加工性などを考慮することが求められます。技術の進歩により、インプラントの生存率が向上し、長期間の使用が可能となっています。最近では、3Dプリンタを活用した表面処理がその高い耐久性から注目を集めています​​ 。

ロボット支援手術では、自動制御技術を利用して手術の精度を高め、リスクを最小限に抑えることができます。具体的には、手術器具の制御や正確なインプラントの設置を行い、術者をサポートします。スマートフォンを用いた簡易マーカーやその他のテクノロジーも活用され、安全性を確保する手段が開発されています​​ 。

これらの進展により、関節疾患の治療が大きく進化し、患者の生活の質が向上しています。

2限目 精神医学の臨床と医療機器
畑 真弘 先生
大阪大学大学院医学系研究科精神医学

精神医学は他の診療科と比べて哲学的・人文学的な要素を強く持つ分野ですが、近年では医療機器を用いた科学的な治療法が注目を集めています。統合失調症やうつ病の治療には、医療機器を用いて脳の細胞に電気刺激を与える方法が考案されています。例えば、経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋直流電気刺激(tDCS)といった治療法があり、これらは脳の特定の部位に微弱な電流や磁場を与えて神経活動を調整し、症状の改善を図ります​​ 。

認知症の診断と治療においても、医療機器の役割は重要です。講義では、脳波を解析することで認知症の早期診断や予防に役立つ可能性があることが説明されました。脳波を簡易に測定できる新たな医療機器の開発が進められており、これにより従来のような測定環境を整えることなく脳波データを取得することが可能となっています​​ 。

また、ディープラーニング技術を用いて患者の脳波を詳細に分析する試みも行われており、認知症の診断精度や治療効果の予測精度が向上することが期待されています。AIによる脳波解析は、従来の手法では捉えきれなかった情報を検出し、早期診断や効果的な治療計画の立案に貢献する可能性があります​​ 。

精神医学は科学と人文科学の融合が求められる分野であり、最新の医療機器や技術の導入により、新たな局面を迎えています。これにより、患者の生活の質を向上させることが期待されています。

3限目 麻酔・集中治療と医療機器
榎谷 祐亮 先生
大阪大学医学部附属病院集中治療部

講義冒頭では麻酔科の成り立ちについて紹介があり、麻酔は鎮静・鎮痛・筋弛緩の三要素からなることをご説明いただきました。麻酔科医は手術中に麻酔器、パルスオキシメーター、気管挿管チューブ、カテーテルなどを巧みに利用し、麻酔管理、呼吸管理、循環管理を行いながら生命維持のバランスを整えます​​。

麻酔科医は手術麻酔だけでなく、重症患者の集学的なケアを担当する集中治療も行います。集中治療では、エコーや人工呼吸器などの機械を用いて患者の治療を行い、生命維持に必要な機能を管理します。特にCOVID-19の影響で集中治療の重要性が再認識され、集中治療医の需要が高まっています​​。

現在、治療に使う機器の発展だけでなく、ビッグデータや通信技術を活用した遠隔ICUの実現が進んでいます。これにより、安全性の担保や集中治療医不足のカバーが可能となり、医療の質が向上すると期待されています​​。

4限目 消化器外科の臨床現場と医療機器
畑 泰司 先生
大阪大学大学院医学系研究科次世代内視鏡治療学共同研究講座

消化器外科の臨床現場において、手術技術と医療機器は急速に進化しています。特に腹腔鏡手術の普及は、患者の術後の回復を早め、痛みを軽減するだけでなく、整容性にも優れています。内視鏡手術の歴史は医療機器の発展そのものであり、現在ではナビゲーションサージェリーやロボット手術が注目されています。ロボット支援下手術は、精密な操作が可能で、術中の手ぶれを抑制し、操作の自由度を高める特徴があります。また、近年の5G技術の進展により、遠隔手術が実現しつつあり、高度な専門医が遠隔地から手術を行うことが技術的に可能となりました。このような技術革新により、消化器外科の手術はますます安全で効果的になっています。医療機器の進歩は、外科手術の未来を形作る重要な要素となっており、今後もさらなる発展が期待されます。

今年も多くの受講生の方々にご参加いただき、各分野から様々なスペシャリストに参画いただいております。6か月間よろしくお願い申し上げます。

来週は「消化器内視鏡機器の役割と今後の展開」、「循環器内科学の現状と課題~循環器医療と医療機器~」、「循環器疾患外科治療~心臓血管外科手術と医療機器~」、「呼吸器外科診療の実際」について学びます。

メディカルデバイスデザインコース2024運営チーム