【MDD Diary 2020】#2 (2020/06/06)「医療機器開発のための臨床医学2」
2020-06-8
今日は「医療機器開発のための臨床医学 」第2日目でした
1限目は大阪大学大学院医学系研究科 産科学婦人科学から木村正先生をお招きして、「産科婦人科領域の臨床現場と医療機器」と題してご講義いただきました。
妊娠及び分娩の基本的な仕組み、胎児モニタリング手法を中心にご説明いただきました。新しい胎児モニタリングとしてSTAN(胎児心電図のSTレベル変化で低酸素を予測するもの)やFetal pulse oximetry(内診する医師の指につけたセンサで胎児の酸素分圧を測るもの)といったものがあるそうです。また、AMEDの支援により大阪大学が研究開発をすすめているシート型ワイヤレス子宮筋電センサについてもご紹介いただきました。これは、子宮収縮に伴い変化する子宮筋の電位変化を時間的・空間的に分析するものだそうです。シート型ということもあり使用しやすく、ウェアラブルな装置としてデータを端末に送信すれば、日常でも胎児のモニタリングができるのではないかと思いました。こういった装置のさらなる研究開発は、胎児と母体の安全性を向上させるとともに、謎が多いとされる妊娠・分娩のプロセスを明らかにすることにも貢献し得ると思いました。(Written by Ur)
日本の妊産婦死亡率は世界的に見ても最も低いレベルまで抑えられているものの、発展途上国では今なお非常に高く、妊産婦死亡全体の99%はそれらの国で発生しているとのことでした。日本の技術力により医療機器の小型化、軽量化を低コストで実現できれば、世界の妊婦さんへ安全な出産と健康という恩恵をもたらすことができる可能性があると知りました。産婦人科領域では、妊娠・出産のメカニズムなど、未だ十分解明されていないことが多いとのことでしたが、胎児心拍モニタリングに関する機器開発の歴史や、死産率、そして妊産婦死亡率低下に至るまでの紆余曲折についてお聞きしていると、周産期医療に従事される先生方の「母子ともに助ける」というとても強い使命感が伝わってきました。(Written by ToShi)
2限目は大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座消化器外科学から高橋秀和先生をお招きして、「消化器外科の臨床現場と医療機器」と題してご講義いただきました。
外科治療の歴史に沿って、鏡視下手術の発展や外科治療において用いられる超音波凝固切開装置をはじめとする手術用医療機器の変遷を、実際の腹腔鏡手術の映像や吻合法などを踏まえてご説明いただきました。また、腫瘍を蛍光イメージングにより視覚的に捉え易くし、外科医の執刀を補助する手法であるnavigation surgery(ナビゲーション手術)についても、その原理も含め実際の写真を用いて大変わかりやすくご説明いただきました。中でも、Indocyanine Green(ICG)を用いてリンパ腺を蛍光染色し腹腔鏡手術を行う実際の映像では、腫瘍が想像よりはるかに鮮明に染色されており大変驚きました。私は生体組織切片上でのイメージング手法を用いた研究をしています。一様に見えるような生体組織でも、特定のターゲットを対象として可視化することで短時間に多くの視覚情報が得られるようになり、まさに「百聞は一見に如かず」の状態となります。このような技術は外科手術のようなスピードを求められる状況下では大変大きな助けになると思います。一方で、表面にある腫瘍が見やすいのに対し、肝臓などの実質組織においては、内部の腫瘍の評価に課題があるこということも伺いました。イメージング技術のさらなる発展により、さまざまな臓器において切除対象を特定するナビゲーション手術の拡がりが期待されます。(Written by Ur)
腹腔鏡手術により手術痕が目立ちにくくなるとともに、患者が早期に復帰できるそうです。また腹腔鏡を用いた外科手術ではその映像記録を手術の技術向上に活用するだけでなく、手術動画をビックデータとして収集してできるシステムも構築されつつあるとのことでした。優れた外科医の匠の技をデータとして蓄積し、多くの外科医に還元することで全体のスキルが上がれば、患者にとっても恩恵になると思いました。(Written by ToShi)
3限目は大阪大学大学院医学系研究科 消化器内科学から林義人先生をお招きして、「消化器内視鏡機器の役割と今後の展開」と題してご講義いただきました。
内視鏡の構造や役割といった基本的な説明から、内視鏡検査による癌の診断、そして内視鏡下の低侵襲治療についてご講義いただきました。胃、食道、大腸の部位別に、診断のポイントとなる癌の深達度、そして、内視鏡下で癌組織を切除するESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)について、実際のデータや内視鏡画像を用いて詳しくご説明いただきました。食道は縦郭と呼ばれる体の中の深い場所に位置するため、一般的に食道癌の外科治療は侵襲度の高い手術となることが多いとのことですが、内視鏡下で手術を行うことで、患者さんの身体的負担を小さくできるそうです。狭い環境でも高い機能性を発揮できるという内視鏡の利点が最大限に活かされている印象を受けました。また、食道全体に広がったがんの場合、抗がん剤によってがんの範囲を狭め、残りのがんを内視鏡手術で取り除く手法もあるとのことで、消化管におけるがんの手術はさまざまな手法の組合せで多くの症例に対応できるようになっているということがわかりました。一方で、食道癌は診断時に既に転移している場合も多いということなので、こういった場合でも患者さんに大きな負担を与えない、低侵襲治療を実現する研究も必要であると感じました。(Written by Ur)
4限目は大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学講座から宮下和幸先生をお招きして、「糖尿病の治療 〜治療の現状と根治に向けた取り組み〜」と題してご講義いただきました。
糖尿病が古来から知られる病気であることをご説明いただき、症状、病態、そして様々な合併症を引き起こす疾患であることをお話しいただきました。体の中で、血糖値がどのようにコントロールされているか、そして、血糖測定法やインスリンを用いた治療、さらに、現在の課題、そしてそれらを解決するための最新の研究についてもご紹介いただきました。特に印象的だったのがインスリン治療の一つであるインスリンポンプを用いた生理的インスリン分泌の再現です。インスリンポンプには自分で操作するものや、自動で血糖を測定しインスリンを注入するものがあります。その中でもClosed-loop pumpというものは、血糖値の変化に応じてインスリン注入量を調節するインスリンポンプで、体外に備え付けられる人工的な膵臓のβ細胞のようであると感じました。しかし、この手法では血糖値の情報を得られるタイミングと実際に血糖値が調節されるタイミングにタイムラグがあるという課題があります。Closed-loop pumpは国内ではまだ承認されていないそうですが、この分野のさらなる発展がとても楽しみです。講義の終盤では、現在研究開発が進められているという、インスリン自体の分子構造を修飾することで、高血糖の際に血中に遊離するように設計された「スマートインスリン」についてもご紹介いただきました。(Written by Ur)
“IoTを利用した食事・運動療法や服薬サポート”について特に興味深く感じました。糖尿病では食事や運動療法を患者さん自身が実践できるかが重要です。IoT技術を搭載した医療機器が開発されることにより、患者さん自身が自分の行動を可視化できたり、薬の飲み忘れを防げたりすることで血糖値を安定させることができると思います。また、機器のサポートを受けることで、病気のことを四六時中気にすることなく日常生活を送れることは、患者さんの心にもよい影響を与え、QOLの向上につながる可能性があると思いました。(Written by ToShi)
【MDDリレーメッセージ】講師の先生からのメッセージはこちら
自粛中に自炊を始められた方も多いようですね。講義会場控え室の窓際では、三つ葉とネギと豆苗がすくすく育っていました。
2020.6.6
MDD Diary 2020
Writers:
ur – バイオマーカーを探して毛髪分析に没頭する大学院生,
ToShi -歯学用の医療機器開発をしている大学院生
Editors:
ChiCo & MDD brain KEI2