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MDD Diary 2018 #16 (2018/10/20)

2018-10-20

Module 4第4日目は、株式会社ハート·オーガナイゼーション 菅原俊子先生、株式会社アルム 坂野哲平先生、株式会社イメージワン 岡庭貴志先生、パラマウントベッド株式会社 木暮貴政先生、アルカディア・システムズ株式会社 相坂渉先生、株式会社ウェルビー 比木武先生にご講義いただきました。
 
 

 
菅原先生には「医師が経験を共有するためのクラウドサービス事業例」と題してご講義いただきました。急速な進歩を続ける医療の世界では、医療者はその知識や技術の習得のために日常的に研鑽を積むことが求められています。しかし、日々の臨床業務に追われる中で、特に若い医師が遠方まで学会にいくことや同時に多くの指導者の教えを請うことは難しい現状があると思います。”e-casebook”が普及することで、グローバルにかつ迅速に症例検討ができ、患者さんが受ける恩恵も大変大きなもとなると思いました。どうしてこれまでなかったのか、と思ってしまうほど現代医療にとっては有益なものであると感じました。また、講義の後半ではビジネスモデルやマーケティング戦略、今後の展開等についてもご講義いただきました。専門医認定制度との連携、医療機器メーカーへの情報の提供などの手法については大変勉強になりました。
 
 

 
坂野先生にはMobile×Cloudが変える医療現場のコミュニケーションという立ち位置で、「医療素人による医療ICT市場への参入、医療従事者用コミュニケーションアプリ「Join」の開発、臨床試験、薬事認証、日本初の保険適応から11カ国の国際展開」と題してご講義いただきました。専門医診断を可能にする『Join』、自身の医療・健康情報を蓄積できる『MySOS』など、医療ICT市場に参入後に次々とリリースされたアプリや、蓄積された情報を活用した今後の事業展開についてご説明いただきました。Joinを活用して早期に専門医による画像診断を受けることができ、救急搬送後数分で手術開始できた事例などをお聞きしていると、早く、全国的に普及してほしいと思いました。また、地域包括ケアシステムの構築がすすめられていく中で、医療情報をコメディカルで共有することは大きなニーズとなっていますが、個人情報保護の観点や、システム連携にかかる費用の面などからなかなか実現していません。MySOSは『患者自身が自分で情報をもつ』ものであり、それらの問題を一気にクリアした画期的な仕組みだと思いました。

 
 

 
岡庭先生には「Let’s enjoy medical device development! 〜在宅医療の時代を見据えたモバイル心電計の開発を通じて〜」と題してご講義いただきました。『中小企業の新規参入』『はじめて医療機器を作る』という点に特化して、ご自身の経験も交えて大変わかりやすくご説明いただきました。製品がどのくらい売れるかマーケットサイズやマーケットシェアを開発前に十分調査してきちんと把握しておくこと、開発後も品質管理を徹底すること、そして製品を売るために、支援者を増やしたり説明資料を充実させたりすること、といった具体的な行動を教えていただきました。また、特長(差別化ポイント)を3つ書く、対象者10人に『これ欲しいですか』と聞く、といったすぐに実行可能な開発のはじめの一歩の踏み出し方についてもアドバイスをいただきとても勉強になりました。
 
 

 
木暮先生には「シート型体振動計「眠りSCAN®」の開発と普及」と題して、ご講義いただきました。臥床者の体動、呼吸、心拍などのデータを経時的に非接触でとることができる『眠りSCAN』は、その情報をコメディカルで共有することで、薬剤や日中の活動量の調整、排泄援助のタイミング設定などに活用できると思います。そのため高齢者介護の現場における睡眠確保や健康管理の課題を解決しうる大変有用なものであると思いました。開発してから『全く売れない3年間』があり、その時期にモニター募集をしたり雑誌の企画に協力したりと様々な策を講じられたお話や、医療機器の認証を受けているということを差別化ポイントとして、研究での使用実績を積み重ねてこられたことなど、紆余曲折ある研究開発・事業化を成功させる上での具体的な事例をお聞きでき大変勉強になりました。『とにかく続ける、絶え間なく挑戦、粘り強く取り組む』先生が講義の最後に話された言葉がとても印象的でした。
 
 

 
相坂先生には「IoMTがもたらすこれからのヘルスサポート」と題してご講義いただきました。維持期の心疾患患者に対して行われる心臓リハビリテーションの継続率が一桁であり、その内容にも改善の余地があるという点に着目して、ヘルサポ事業をはじめられたとのことでした。これらの事業は現在では、高齢者介護の現場でも活用されているとのことで、山登りしている感覚でリハビリを楽しむものや平泳ぎでゴールを目指すものなどいろいろな種類のものがあるようで、見せていただいた動画ではみなさんとても楽しそうに、そして熱心に取り組んでおられました。『興味関心をひく、危険なく実施できる、成果を視覚化できる』といった高齢者のリハビリのポイントがとらえられていることで広く普及してきたのだと感じました。講義の後半ではデータヘルスの方向性として、国の施策についてもご説明いただき、国民皆保険制度をとる日本だからこそできる取り組みも多いのだと思いました。また、今後展開予定のIoTヘルスケアイベント事業をについてのお話をお聞きしながら、医療機器として認証または承認のプロセスを経て効果を謳うことで販売促進につなげる場合と、ヘルスソフトウェアとして社会の認知度を高めていくことでビジネスを成り立たせる場合があるのだろうと気付きました。
 
 

 
比木先生には「慢性疾患でのPHRの臨床利用と有用性」と題してご講義いただきました。従来の電子カルテがEHR(Electronic Health Record)と呼ばれるのに対し、PHRはPersonal Health Record、すなわち患者さんが自分のカルテをもつことを指します。患者さんが自分のデータを持つことで、複数の医療機関で重なった検査を受けなくて済むようになったり、手術などで大きな病院に行く際にも楽に移行できる時代が来ることが想像できました。また、慢性疾患を有する場合、長期的な自己管理が求められるため、健康への意識や健康行動のモチベーションを維持できるような仕組みが非常に重要だと思います。スタンプを活用したメッセージのやりとりや、SNSでいいねを押すのと同じように、日常の感覚のまま専門家からのサポートが受けられたら、ドロップアウトする人は減ると考えられます。また一方で、医師や保健師、栄養士が対面でサポートを行うことで効果があがる場合もあるので、医療者は対象者にあった方法を選択して、効果検証を続けていくことが重要であると思いました。質疑応答では、プログラム医療機器として認証を受けるかどうかの戦略的な部分についても言及いただき大変勉強になりました。
 
 
18時からは、筑波大学教授で、CYBERDYNE株式会社 代表取締役社長/CEO でもあられる山海嘉之先生から「革新的サイバニックシステムによる最先端医療イノベーションの夜明け」と題して特別講義がありました。講義は東京会場、福岡会場へもライブ配信されました。
 

 
山海先生のご講義は、小さい頃SF小説を読んだときに抱いた感情を彷彿とさせる大変エキサイティングなものでした。内容はヒミツですが、私の頭の中の宝物にしたいと思います。

 
 
講義の終了後には、イブニングネットワーキングと修了式が行われました。
 

 

 

 
6月からはじまった本コースも本日で終了になります。
 
今年も100名以上の受講生の皆様にご参加いただき、2016年から3年間で300名を超える同窓生が生まれました。本コースでの学びや出会いが皆様方にとって少しでも有益なものとなれば幸いです。遠方から航空機や新幹線にて、またせっかくの土曜日にもかかわらず、半年間にわたりほぼ毎週会場へお越しくださり、ありがとうございました。また、全96時間75講義の開催にご協力いただきました講師の先生方にもあらためて感謝を申し上げます。人材育成は短期的な成果を求めるものではありませんが、5年10年を経て、日本発の医療機器が世界の医療現場で今よりももっと活躍の場を広げるようになり、その先頭にこのコースを受講された皆様がおられることを願っております。最後になりましたが、皆様のご健康とますますのご活躍をお祈り申し上げます。
 

東京会場1階ロビーにて
 

 
2018.10.20
MDDコース2期生 チコ(ChiCo)