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MDD Diary2018 #14 (2018/10/06)

2018-10-6

秋休みを経て、3週間ぶりのMDDコース開催でした。
福岡会場周辺では台風により交通機関の乱れる中、皆様お越しいただきましてどうもありがとうございました。
 

シスメックス株式会社 浅野薫先生、株式会社アドメック 中住慎一先生、山科精器株式会社 保坂誠先生、医療機器センター 医療機器産業研究所 高山修一先生、株式会社IFG 森和美先生、大阪大学べンチャーキャピタル株式会社 水原善史先生にご講義いただきました。
 

 
浅野先生には「体外診断用機器、試薬の開発」と題してご講義いただきました。はじめにシスメックス社が大学と共同で開発された、がんリンパ節迅速診断技術についてご説明いただきました。ふとした出会いで始まった産学共同研究開発プロジェクトですが、術中の迅速診断加速と病理医の負担軽減というニーズをテクノロジーが叶えた好例です。航空機のエンジンがよく例に出されますが、昨今、医療機器業界でもメンテナンスで収益を確保するビジネスモデルが増えております。体外診断用機器においても、試薬の販売やサービス&サポートにより安定的な収益を確保する収益モデルが構築されていることを教えていただきました。先日、京都大学の本庶佑先生が免疫チェックポイント阻害薬の開発でノーベル医学・生理学賞を受賞されましたが、講義の後半では、新規抗がん剤の登場に伴う体外診断薬の普及と「Precision Medicine(個別化による精度の高い医療)」についてもご説明いただき、今後の医療のあり方が変化していく可能性について学びました。治療の効果と副作用の減少が期待できる個別化医療が進むことで、患者さんのQOL向上や医療費削減が実現される日がくればとてもすばらしいと思いました。
 
 

 
中住先生には「ベンチャー企業にあるものとないもの〜ハイパーサーミア機器の開発を通じて〜」と題してご講義いただきました。愛媛大学発医工連携ベンチャーとして腫瘍を熱で治療する医療機器の研究開発と動物用途での製造販売を行ってこられたご経験や、ベンチャー企業ならではの資本戦略について大変興味深いお話を聞かせていただきました。企業として継続するために、日銭を稼ぐビジネスを並行して行う必要があるというのは、ベンチャー企業を運営されてきた経営者ならではの言葉だと思います。探索的試験を行ったあとに、まずは獣医療において臨床例を積み重ねて利益をあげるようにしたことや、国内の臨床応用に踏み込む前に海外での認証を取得したことなどを教えていただき、医療機器開発および販売においては戦略が非常に重要であることを改めて認識できました。高額な設備投資を必要とせず、患者さんにも低侵襲なハイパーサーミアによる治療が、日本でも受けられる日が早く来るといいなと思いました。
 
 

 
保坂先生には「医療機器開発から販売までの取り組み~医工連携と参入課題への対応~」と題してご講義いただきました。参入までの取り組みについては、『公的支援』『産学官連携』『ブランディング』をキーワードに大変わかりやすくご説明いただきました。また、参入後の難所をどのように乗り越えてきたかや、製品開発はできたにもかかわらず、上市に至らなかった開発品の存在など、普段はきくことができない開発の裏側までご紹介いただき、機器開発の実際について深く学ぶことができました。
 
 

 
高山先生には「カメラから胃カメラ、そして内視鏡の時代へ」と題して、現在の内視鏡にいたる開発の歴史について教えていただきました。1950年代に3名の社内ベンチャーからスタートしたプロジェクトが、世界中の患者さんを救う製品を生み出すまでに成長した背景には、改良したいニーズを常に持ち、その実現のために挑戦し続けた多くの人の努力があるのだと知りました。Module1の臨床医学の講義において内視鏡治療の実際について学び、Module3の機器実習において実際に機器に触れ、内視鏡のもつ有益性やそれを実現するテクノロジーに感動していたので、開発の歴史をお聞きすることができとても有意義な時間でした。
 
 

 
森先生には「ダーウィンの海にもまれながら」と題して、脳梗塞後のリハビリ支援を目的とした末梢神経磁気刺激装置の製品開発についてご紹介いただきました。医療機器開発をする一方で、産業機器を製造販売して安定収入を確保していくという企業経営における方策や、開発に注力するばかりでなく販売についても検討しておく必要があることなどを教えていただき、大変勉強になりました。また、金融業界の経験がある経営者でも苦労する資金調達、震災後の難局を乗り切った場面など、今だから語れるお話が満載でした。ダーウィンの海にもまれながらも、現場の声(ニーズ)をきいて次なる製品を開発していくと、『結局、陸地はないんだと感じる』とおっしゃっていた先生のお言葉が大変印象的でした。
 
 

 
水原先生には「医療機器ベンチャーにおける資本戦略」と題してご講義いただきました。MDDコースにおいて資本戦略に関する講義は今回がはじめてでした。新株を発行することで資金調達を行う『Equity Finance』、銀行融資や社債の発行で資金調達を行う『Debt Finance』も聞きなれない言葉でしたが、基礎的な部分から大変わかりやすく教えていただきました。また講義の後半では、実際のベンチャー企業の例を通して株価や調達額の計算する演習があり、これまでの多くの先生方のご講義でお聞きしていた資金調達の苦労について少し理解できたように思いました。
ベンチャーキャピタル(VC)が投資検討する際に、経営体制の評価に加えて、『人』や『情熱』も重視しているということをお聞きして、『VCとして担保なしで多額の投資を決断する』、その舞台裏のような話もいつか聞いてみたいと思いました。
 
 
 

 

 
来週も引き続き医療機器開発の実践について学びます。2018年からの新しい講師の先生方も多数お迎えしてご講義いただく予定になっています。

 
本年度のMDDコースも13日、20日と残り2回となりました。皆様と最後まで駆け抜けたいと思います。
朝夕が少し寒くなってきましたが、体調崩されませんように。
 
 

 
 2018.10.06
 MDDコース2期生 チコ(ChiCo)