【MDD Diary 2025】#11 (2025/9/06)
2025-09-6
本日は「医療機器開発のための機器実習」第3日目でした。機器開発の歴史や仕組み、実際の医療機器を用いた実演を通じて、臨床現場での活用方法や最新技術の進歩について学びました。

1限目 経皮的心肺補助システム(PCPS/ECMO)
テルモ株式会社
コロナ禍でメディアにも頻繁に登場した体外式膜型人工肺(ECMO:Extracorporeal Membrane Oxygenation)についてご講義いただきました。ECMOは人工肺と血液ポンプを組み合わせた心肺補助システムや治療法の総称であり、肺機能のサポートだけでなく、心臓と肺の両方を補助する場合もあります。今回の講義では、ECMOの分類(肺のみ/心肺両方)、構造、適応疾患、禁忌といった基礎から、導入中の注意点、合併症、特に血栓形成のリスクについて幅広く学ぶことができました。
実演では、ECMOの挿入方法や機器管理の実際を確認しました。とりわけ臨床現場で頻発する脱血不良のアラーム対応について解説いただきました。血流量が2.0L/分を下回ると自動的にアラームが作動する仕組みが取り入れられている点も事情に効率的と感じました。
質疑応答では、「人工肺の位置など、使用に際して注意すべき点があるが、現場従事者にはどのように周知しているのか」など多数の質問がありました。これに対し、患者さんより下に配置するのが基本であるとご説明いただき、実務的な工夫についても触れることができました。

2限目 人工呼吸器
コヴィディエンジャパン株式会社
酸素療法の一つである人工呼吸器についてご講義いただきました。はじめに呼吸の基礎として、肺胞の構造やガス交換の仕組み、自然呼吸と人工呼吸の違いについて学びました。さらに人工呼吸器の開発の歴史について写真を交えてご紹介いただき、技術の進化を追体験することができました。現在の人工呼吸器は、患者の呼吸様式をグラフィックで表示し、非同調を軽減できるレベルにまで進化しています。最新機器では2ml単位の換気量まで制御可能であり、胸部に電極を装着することで肺内部のガス分布をリアルタイムに可視化する技術も搭載されています。これらは最適な人工呼吸管理や肺保護戦略の実践に大きく貢献するものと考えられます。
実演では、挿管チューブの挿入方法や人工呼吸器のセットアップ、表示されるグラフィック波形の確認を行いました。また、実際のアラーム音も体験することで、現場での使用感覚を理解することができました。あわせて、日本では薬事承認のハードルが高いという現状についてもご説明いただきました。
質疑応答では、「加温加湿した吸気が結露した場合、どのように検知しているのか」という質問に対し、センサー部分に結露が生じないようフィルターを設置したり、一定の流量を流し結露を防ぐ仕組みが採用されているとの回答をいただきました。

3限目 分娩監視装置・胎児振動刺激装置・ドプラ胎児診断装置
トーイツ株式会社
分娩監視装置、胎児振動刺激装置、ドプラ胎児診断装置について、開発の歴史と原理をご講義いただきました。分娩監視装置の目的は、異常を確定診断することではなく、胎児が健康であるか(well-being)を確認することにあります。今回の講義では、分娩監視装置の測定原理を学びながら、胎児の状態を評価するためにどのような指標が用いられているのかを理解することができました。過去50年間で日本の妊産婦死亡率は著しく低下しており、その背景には分娩監視技術や胎児診断装置の発展が大きく寄与していると考えられます。また、正常分娩は特にリスクのない自然分娩であるため、自費診療となることについてもご説明いただきました。
実演では、分娩監視装置の実際の画面を通して胎児心拍数と陣痛の記録(胎児心拍数陣痛図)の出力方法や、グラフィック表示の見方について解説していただきました。これにより、臨床現場でどのように胎児と母体の状態をモニタリングしているのかを具体的に学ぶことができました。

4限目 陰圧創傷治療システム(NPWT)
スミス・アンド・ネフュー株式会社
局所陰圧閉鎖療法(NPWT:Negative Pressure Wound Therapy)に用いられる陰圧維持管理装置についてご講義いただきました。まずNPWTの歴史を学び、1909年にドイツの医師Augustが考案した充血療法が、ニューヨークの外科医Willy Meyerによって教科書で紹介され、広く臨床に普及していった経緯を知ることができました。この手法が現在のNPWTの原型とされているとのことでした。NPWTは、管理された陰圧を加えることで創部の保護、肉芽形成の促進、滲出液や感染性老廃物の除去を行い、創傷治癒を促進することを目的としています。適応は既存治療で効果が得られない、あるいは効果が見込めない難治性創傷です。近年は、創傷治療の可能性を広げる次世代機器として、手のひらサイズで軽量設計のPICOが登場し、外来や在宅での管理を可能にしています。さらに在宅医療におけるNPWTが保険適用となり、治療の選択肢が大きく広がったことも印象的でした。
実演では、NPWTの装置説明と創傷部への装着方法を学びました。治療開始と同時に陰圧がかかり、創傷部を覆ったドレッシング材がしぼんでいく様子を観察でき、その変化が非常に印象に残りました。

5限目 内視鏡機器
オリンパスマーケティング株式会社
定期検査から治療まで幅広く用いられる内視鏡について、歴史、基本構造・種類、そして最新技術をご講義いただきました。1950年に世界初の胃カメラが実用化されてから約70年、現在ではカプセル内視鏡やAIを搭載した内視鏡画像診断支援ソフトウェアが開発されるなど、大きな進化を遂げています。また、特殊光・画像強調技術についても解説いただきました。その代表的なものが狭帯域光観察(NBI:Narrow Band Imaging)であり、血液中のヘモグロビンに吸収されやすい狭帯域化された2つの波長を用いることで、粘膜表層の毛細血管や粘膜微細模様を強調して観察できる技術です。さらに、内視鏡用処置具を用いた治療についても紹介されました。代表的な方法として、内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic Mucosal Resection)、および高周波ナイフを用いた内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD: Endoscopic Submucosal Dissection)があります。特にESDは、粘膜層から粘膜下層までを剥離し、病変を一括切除できる治療法で、早期がん治療の第一選択として普及しているとのことでした。日本が世界に誇れる技術として、今後さらなる発展が期待されます。

6限目 鏡視下手術機器
オリンパスマーケティング株式会社
5限目に続いて、腹部や胸部に数か所小さな穴を開け、腹腔鏡や胸腔鏡といった内視鏡を挿入して体腔内を観察しながら、鉗子や電気メスを用いて施術する内視鏡下外科手術について学びました。内視鏡下外科手術は、開腹手術に比べて傷が小さく術後の疼痛も少ないという大きなメリットがあります。一方で、手術適応に制限があること、術者に高度な技術が求められること、必要な機材が多いことなど、デメリットも存在します。術野はカメラ映像に依存するため、3D・4K・IR(赤外線)といった映像技術が導入され、術者がより鮮明かつ直感的に術野を把握できるよう進歩している点も印象的でした。
実演では、装置本体の構造説明と操作の様子を見せていただき、実際のイメージを掴むことができました。皮膚切開からトロッカーの挿入、縫合操作のデモンストレーションが行われており、機器の理解が深まりました。
質疑応答では、「AR/VRは鏡視下手術機器に搭載されていく流れにあるのか」という質問に対し、今後はその流れであり研究開発が進められているとの回答をいただき、映像支援技術のさらなる発展に期待が高まりました。

7限目 手術用ロボット手術ユニット
インテュイティブサージカル合同会社
医療従事者以外の方でも一度は耳にしたことのあるDa Vinciサージカルシステムについて学びました。手術の現場はこの数十年で大きな変革を遂げ、開腹手術→腹腔鏡手術→ロボット支援手術という流れの中で、Da Vinciは外科領域に新たなスタンダードを築いたといえます。1980年代から医療現場でもロボットは導入されていましたが、当時は高度な技術を要するため普及は限定的でした。しかし、その後30年にわたる低侵襲治療技術の進歩を背景に、現在では多くの医師が使用するまでに発展し、日本でも症例数が着実に増加しています。特に保険適用の拡大が普及を後押ししており、2012年に前立腺悪性腫瘍手術で初めて保険適用されて以降、2018年以降は対象術式が拡大、2022年には3術式で従来手術よりも高い保険点数が算定されるようになりました。これは、ロボット支援手術が単なる代替手段ではなく、臨床的メリットが評価された結果であるといえます。最新の動向として、手術の過程で得られるデータをAIが解析し、術者のパフォーマンスを評価するシステムの導入も進められているとのことでした。これにより、安全性の向上が期待されています。
実演では、実際に患者さんの腹部に機器を設置し、Da Vinciを用いた導入手順を確認しました。従来の開腹手術や腹腔鏡手術とは異なる印象を受け、ロボット支援手術ならではの特徴を実感できました。
質疑応答では、「海外での保険適用範囲と日本の違い」について質問が出されました。これに対しては、アメリカには国民皆保険がないため、加入している保険によって受けられる手術が異なり、それにより対象が多くも少なくもなる点が最大の違いであるとの回答をいただきました。

【8限目】義肢装具
川村義肢株式会社
医療業界では必ずしもメジャーとは言えないものの、パラリンピックやアニメを通じて注目を集めている義肢装具について学びました。技術の進歩により、外見だけでは義肢と気づかないほど自然なものも増えてきています。義肢は歴史的に戦争による切断患者の増加を契機に発展しました。近年では、労働災害や交通事故に加え、糖尿病など生活習慣病や高齢化による切断が背景となっています。義肢の導入により「立って歩く」「両手を使う」といった機能を取り戻すことができ、生きがいや社会復帰を支える大きな助けとなります。現在は電動義手も導入されていますが、普及率は欧米が約20%であるのに対し、日本では1%程度とまだ低い現状も紹介されました。一方、装具は脳卒中や脊髄損傷などによる運動麻痺に対して、リハビリ目的で使用されることが多いです。義肢装具士は入院から在宅まで幅広く関与しますが、多くは病院ではなく民間企業に所属しているという実態を知ることができました。近年ではデジタルスキャンや3Dプリンターを活用した製作も進んでおり、今後の発展にはさらなる安全性の確保が重要になると感じました。
実演では、筋電義手の操作で物を把握・掴む様子を観察しました。義足の歩行実演では、シリコン素材を用いることで健側と見分けがつかないほど自然な仕上がりになっており、日常生活への適応力の高さを実感できました。
質疑応答では、「義肢装具士は、現時点で6千人あまりとのことですが、理想的な人数はどの程度でしょうか」という質問がありました。これに対し、実際に活動しているのは約3千人にとどまっており、この分野の人材不足が浮き彫りになりました。
次回は「血糖値センサー(SMBG)」、「グルコースモニタシステム(CGM)」、「ポータブルインスリン用輸液ポンプ」、「血液透析機器(HD)」、「医療機関における医療機器の管理」、「超音波診断装置」、「ポータブル超音波機器」、「黄疸計」が登場します。
メディカルデバイスデザインコース2025運営チーム