【MDD Diary 2025】#5 (2025/7/05)
2025-07-7
こんにちは。メディカルデバイスデザイン(MDD)コース2025運営チームです。7月5日(土)より「Module 2 ~医療機器開発のマネジメント~」が始まりました。今回はその一日を振り返ります。

1限目 医療機器開発のプロジェクトマネジメント 〜ニーズ探索・コンセプトデザイン・開発インプット〜
西内 誠 先生
朝日インテック株式会社
医療機器開発のプロジェクトマネジメントに関する知識と実践的な考え方をご教示いただきました。まず、医療機器の開発とは、単に良いものを作ることではなく、「適切な価格で市場に継続的かつ安定的に供給できて初めて成功である」という前提が示されました。そして、開発の成否を分ける要素として、プロジェクト初期段階に課題を深く掘り下げる「Front Loading」の考え方が紹介されました。特に強調されたのは、「医療機器は医療現場から生まれる」という視点です。つまり、現場の未解決課題を起点に開発を進めるニーズドリブンな姿勢が不可欠であり、現場のニーズを的確に捉えず、自社の思い込みだけで進めた開発は失敗のリスクが高まるとの警鐘が鳴らされました。講義では、現場のニーズの探り方から、それをどのように開発インプットやコンセプトへと昇華させるかまで、エンジニアの立場から具体的に解説がなされ、開発における作戦としての開発計画の重要性についても説かれました。
質疑応答では、「従来の方法が当たり前とされる現場に対して、新たな価値をどう伝えるか」という問いに対し、「プロトタイプを用いて直感的に伝えること」「誰に示すかを意識すること」が効果的であるとのアドバイスをいただきました。

2限目 医療機器における承認・認証制度
中野 壮陛 先生
公益財団法人医療機器センター
医療機器の製造販売における「製品規制」の本質について、承認・認証制度を軸に解説いただきました。まず、医療機器は勝手に売れない製品であり、市販前には厚生労働大臣の承認または登録認証機関による認証が必要であることが説明されました。これは医薬品医療機器等法に基づく規制であり、その目的は品質・有効性・安全性を確保するための枠組みであることが強調されました。製品規制を正しく理解し活用することが、臨床現場へより迅速かつ的確に製品を届ける第一歩である、というメッセージが非常に印象的でした。また、医療機器は多様性(ダイバーシティ)に富んでおり、一律の規制対応では不十分であることから、製品ごとに最適な薬事戦略を立てる必要があることが強調されました。たとえば、既存製品との同等性がある「後発医療機器」、一部機能が改良された「改良医療機器」、新規性が高い「新医療機器」では、それぞれ承認に至るまでのプロセスが大きく異なります。
「開発段階のプロトタイプ機を用いて実施した医師との共同研究において評価した実績はその後の薬事申請のエビデンスとして使うことはできるか?」という疑問が呈され、講義スライドを使いながら、評価データの有効性を裏付けるための考え方や注意点についても丁寧にご解説いただきました。

3限目 ユーザビリティエンジニアリングとIEC 62366-1
吉田 賢 先生
株式会社UL Japan/Emergo by UL
ユーザビリティエンジニアリング(UE)及びヒューマンファクタエンジニアリング(HFE)については、国内外で活躍されている吉田先生よりご講義いただきました。UE/HFEは、ユーザーが医療機器を安全かつ有効に使用できるようにすることを目的としており、医療機器の使用中に起こる使用エラーを未然に防ぐためのプロセスです。特にJIST/IEC 62366-1や米国FDAのHFEガイダンスなど、国際的な法規制の中では使用に関するリスク分析が中核に位置づけられており、その実施が製品の上市に直結することを強調されました。UEプロセスの第一歩はユーザーリサーチにあります。観察やタスク分析、インタビューなど多様な手法がありますが、特にインタビューは低コストかつ実行しやすいため初期フェーズに適していると紹介されました。この点は1限目の西内先生の講義とも重なり、医療現場のニーズ把握と開発コンセプト形成における共通の視点が示されました。
質疑応答では、「米国・欧州・日本での同時上市を考える際、ユーザビリティ評価を各国で行う必要があるか?」という質問があり、現時点では「米国(FDA基準)での評価が最も包括的である」との実践的なアドバイスをいただきました。

4限目 医療機器における電気安全とEMC(電磁両立性)の実際
芝田 侯生 先生
一般財団法人日本品質保証機構 北関西試験センター
本講義では、医療機器開発における電気安全およびEMC(電磁両立性)に関する重要なポイントについて、実務的な視点から詳しくご解説いただきました。冒頭では、新規格への対応期限や電磁妨害(EMD)に関する最新のTopicsを紹介いただきました。電気安全は直接的に人体へ影響を及ぼすリスク(感電・火災・火傷など)、電磁妨害は間接的に機器誤作動を引き起こす可能性を持つリスクであり、どちらも使用者・患者の安全と密接に関係するため、非常に細かい技術的・制度的取り決めが存在することを学びました。特に印象的だったのは、リスクマネジメントとの連動です。3限目の講義で学んだアプローチと同様に、電気安全・EMCでもJIS T14971(ISO14971)に基づくリスクマネジメントが求められ、開発初期段階からこれらを意識したモノづくりが不可欠であると理解しました。
質疑応答では、「電気安全やEMDにおいて後戻りを防ぐには、都度、簡易的な試験を行っていくのが望ましいのか?」という質問に対し、先生からは「設計者は開発段階から電気的リスクを意識し、必要に応じて試験を行うことが求められる」とされたうえで、「もし社内に精通した人材がいなければ、早い段階で外部の専門家に相談・打診する必要がある」とのアドバイスをいただきました

5限目 医療機器と生物学的安全性について
桜井 一真 先生
一般財団法人日本食品分析センター
本講義では、医療機器が人体に与える影響を科学的に評価する「生物学的安全性」について、桜井先生より網羅的にご解説いただきました。医療機器は、体内に留置されたり、組織や血液と直接接触することがあるため、使用者にとって化学的・生物学的な安全性の確保は極めて重要です。講義ではまず、生物学的安全性評価の意義や開発プロセスにおける位置付けについて説明があり、これは医療機器開発において基礎研究に続く重要なステップであることが明示されました。また、生物学的安全性の評価では、単に規定された試験項目を網羅すればよいというものではなく、常にリスクマネジメントの視点に立って判断を下す必要があるという点も強調されました。具体的には、ISO 10993シリーズなどの国際規格を参照しつつ、医療機器に期待される「ベネフィット」と想定される「リスク」とのバランスをいかに評価するかが実務上の難所であり、その責任は開発者に委ねられることを再認識しました。
質疑応答では、「薬機法等では、生物学的安全性試験の対象が最終製品形状の医療機器であるとされていますが、部品単位で販売する場合にはどのように対応すべきでしょうか?」という質問が取り上げられ、先生からは、「人体に接触する部品である場合には、部品単体であっても試験対象となるケースが多い」との実務的な回答が示されました。
次回は「医療機器開発と医療機器製造販売業〜業態・業許可・遵守事項〜」、「QMSとISO13485」、「AI医療機器の審査」、「医療機器開発におけるサイバーセキュリティ」「プログラム医療機器における必須知識」について学びます。
メディカルデバイスデザインコース2025運営チーム