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【MDD Diary 2022】#11 (2022/09/03)

2022-09-3

本日はModule3 〜医療機器開発のための機器実習〜3日目~でした。

1限目 内視鏡機器
オリンパスマーケティング株式会社

胃や大腸など人体の至る所に適用される内視鏡機器について、開発の歴史、基本的な構造・種類、最新の技術について説明していただきました。内視鏡機器は日本において発展している医療機器です。挿入される本体の外径は技術の進歩によって鉛筆ほど細くなっており、検査の苦痛が抑えられています。実習では、実際の内視鏡機器を用いてスネアによる内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic Mucosal Resection)や、高周波ナイフを用いた内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)の手技を見せていただきました。内視鏡は診断のみならず治療ができるところまで進化しており、「切らずに直す」という概念を確立させた日本が世界に誇れる技術です。これからAIの発展などにより内視鏡機器の更なる飛躍に注目していきたいと感じています。

2限目 鏡視下手術機器
オリンパスマーケティング株式会社

1限目の内視鏡機器の講義に続き、内視鏡下外科手術についてご教授いただきました。内視鏡を用いた手術は、開腹手術と比べて傷が小さく痛みが少ないなどのメリットがある半面、手術操作が複雑で習熟した技術が求められることや、必要な機材が複数あるといったデメリットもあります。術野はカメラ映像に依存するため、3Dや4K、IRなどより術者が術野を把握しやすくする映像技術が導入されています。実際のシミュレーションでは、外科医が皮膚を切開し、トロッカー(ビデオスコープや鉗子を体腔内へ挿入するために用いるもの)や手術器具を挿入し、縫合する操作を見せていただきました。今後はAIやロボット手術が台頭していくことも予想されますが、内視鏡手術の発展も楽しみです。

3限目 手術用ロボット手術ユニット
インテュイティブサージカル合同会社

内視鏡手術支援ロボットのDa Vinciサージカルシステムについてご講義して頂きました。手術中に病変部にボタンを合わせることで自動的に4本のアームが適切な位置に配置されるシステム等を搭載し、人間の手関節では不可能な動きを可能にしています。日本では、初めに前立腺悪性腫瘍手術に適用されましたが、2018年頃から保険適用範囲が増加しており、その後も年々範囲が拡大されています。動画では実際にDa Vinciが動いている様子や手術で使われている様子を見学しました。術者はコックピットのようなカートに座り、3Dのカメラを覗きながら遠隔でアームの操作を行います。精密な操作による侵襲や出血量の少なさなど患者さんのみならず、術者の負担軽減など多方面でメリットが大きいと感じられました。

4限目 定置型保育器(クベース)・光線療法
アトムメディカル株式会社

保育器は新生児が健康に発育できる環境づくりをする機器で、母親の胎内と同じ環境である「保温」「加湿」「酸素」「感染防止」「観察」の5つの基本性能を有しています。講義では新生児の生理学的特性に沿って機器の特徴をご教授頂きました。基本性に加え、処置窓がゆっくり倒れる構造、ストレスを与えないために図書館と同程度の静穏環境を保てる改良がなされていました。実際にクベースを用いて、手術室で帝王切開が行われた際のシミュレーションを見せていただきました。処置を行うために天井がオープンになるなど、医療職者にとっても管理が行いやすい機能があることを学びました。また、新生児の高ビリルビン血症による黄疸に対して行う光線療法についてもご講義して頂きました。透明な保育器の上から新生児に光線を当てることで体内のビリルビンを排出しやすい水溶性に変換することで重篤な核黄疸を予防することができます。

5限目 ペースメーカー・ICD・CRTD・プログラマー
日本メドトロニック株式会社

ペースメーカーの歴史をメドトロニック社(世界初の電池式心臓ペースメーカーを開発し社会実装)の歴史とともにご講義いただきました。黎明期のペースメーカーはペーシングを行うのみでしたが、時代の流れとともに患者さんの疾患に合わせて様々な調整ができるように加速度的に発展していきました。加えて、電気ショック機能を備えたICD(植込み型除細動器)や、心臓の自律的なポンプ機能を活性化させる治療法であるCRT(心臓再同期療法)について紹介していただきました。リード抜去術の方法や、それを可能にする医療機器についても概観しました。ペースメーカーの技術を応用した新たな心臓植込み型デバイスが出現しています。また、遠隔モニタリングシステムの活用により患者さんの通院回数を減らすことができます。最先端の技術が医療を新たな次元へと引き上げることが期待されています。

6限目 リードレスペースメーカー
日本メドトロニック株式会社

近年興隆しつつあるリードレスペースメーカーについてご講義頂きました。従来のペースメーカーにはリード線が必須でしたが、感染により取り出さなければならなくなった際のリスクが大きいという最大の課題がありました。これ以外にも、体内のリード線が血管と癒着することで静脈が閉塞する、ジェネレーターを皮下に植え込む際に血腫が生じるなどということが以前から問題となっていました。患者さんの負担となる合併症を避けるために、リードレス型という新しいペースメーカーが生まれ、臨床現場に投入されています。その大きさは十円玉程度であり、最新技術の結晶と呼ぶべきものです。さらに侵襲性の低さ、処置時間の短縮、外観の目立たなさという大きなメリットが存在します。実習ではカテーテルを用いてリードレスペースメーカーを心室中隔に留置する手技を見せていただきました。リードレスペースメーカーは電池で動いていますが、12年も持つことや、電池を交換するのではなく必要な場合は追加で留置していく点はあまり知られていなかったのではないでしょうか。

7限目 着用型自動除細動器(WCD)
旭化成ゾールメディカル株式会社

着用型自動除細動器(WCD)の機能や構造について解説していただきました。これは前述した体内植込み型の除細動器とは異なり、心臓突然死のリスクがありながら植込み型除細動器をすぐに適用できない患者さんや、心筋梗塞直後など一時的に致死性不整脈のリスクが高い患者さんを対象に使用するものです。WCDは症状の検出・治療・記録という三つの機能を一つの装置で行うことができます。WCDを用いて除細動を行うためには患者さんとデバイスの間に通電性を確保する必要がありますが、そのためのジェル放出のプロセスに火薬が使われていることには驚きました。エアバックと同じ原理だそうです。一見、電極が背中側や胸側に入っていたり、しっかり密着させるように着用しなければならないなど、少し窮屈な印象を受けましたが、実際に着用してみると、見た目よりもほとんど圧迫感を感じさせない構造になっており、患者さんの日常生活を妨げずに設計されたデバイスであると感じました。

5~7限目 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学
中野 智彰 先生

5~7限では不整脈治療について、臨床医の観点から治療デバイスにまつわる解説をしていただきました。ペースメーカーに関しては、感染した場合の治療法について伺いました。体内に入れた異物に感染が起きると、薬による治療のみではコントロールが難しい場合が多く、基本的にデバイス自体を取り除く必要があります。デバイスの抜去は容易ではなく、リードと血管との癒着を取り除きながら剥離する必要があり、大きなリスクを伴います。感染した場合のリスクを抑える別のアプローチとして、皮下植込み型除細動器(S-ICD)についても解説いただきました。通常のICDとは異なり、リードを血管内や心臓に入れないため感染症のリスクを下げることができるなどのメリットがありますが、一方でペーシングができないなどのデメリットもあるそうです。最後に電流で心筋に熱変性を起こすことで頻脈性不整脈を治療するカテーテルアブレーションを主とする、不整脈治療の概観についてご教示いただきました。これまで様々な不整脈治療デバイスが登場してきましたが、どの疾患に対してどのデバイスを用いて治療が行われるかについて知識を整理することができました。

8限目 義肢装具
川村義肢株式会社

義肢と装具について、歴史や義肢・装具の種類、近年の技術についてご教授いただきました。義肢といっても用途は様々で、日常生活用・作業用・スポーツ用のものがあり、関節部分の進歩によって、義肢を着用した場合でも通常の足と変わらず歩行することが可能になっています。装具とは四肢・体幹の機能障害の軽減を目的として使用する補助器具のことです。ケガの治療や手術後のリハビリのために使われます。実習では従来の義手と最新の義手の違いを見せていただきましたが、ただ物をつかむだけでなく5本の指すべてが動き、小さなものから大きなものまでを電子制御によって、より人間の手に近い形で動かせるように改良されており大変驚きました。講義の終わりに、義肢装具業界の今後の展望についてお話を伺いました。エンジニアが提供する高度な設計技術や、AIを利用したデザインの改良などの異業種とのコラボレーションに期待されているとのことです。

次回はModule3最終日です。「自動吻合器・縫合器・エナジーデバイス」、「陰圧維持管理装置」、「経皮的心肺補助システム(PCPS/ECMO)」、「人工呼吸器」、「医療機関における医療機器の管理」、「超音波診断装置」、「分娩監視装置・胎児振動刺激装置・ドプラ胎児診断装置」、「黄疸計」について学びます。

メディカルデバイスデザインコース2022運営チーム