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【MDD Diary 2021】#12 (2021/09/11)

2021-09-19

本日はModule3 〜医療機器開発のための機器実習〜第4日目~でした。

1限目は自動吻合器・縫合器・エナジーデバイス(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)、2限目は人工呼吸器(コヴィディエンジャパン株式会社)、3限目は機能検査オキシメータ(浜松ホトニクス株式会社)、4限目は超音波診断装置(株式会社フィリップス・ジャパン)、5限目は分娩監視装置・胎児振動刺激装置・ドプラ胎児診断装置(トーイツ株式会社)、6限目は黄疸計(コニカミノルタジャパン株式会社)、7限目は保育器(クベース)・光線治療器(アトムメディカル株式会社)について学びました。

1限目:自動吻合器・縫合器・エナジーデバイス
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社

Module1の消化器外科の講義で登場した自動縫合器ですが、100年以上の歴史をもつデバイスであることに驚きました。自動縫合器・吻合器は、ステイプラーと呼ばれ、挟んだ組織にまずホッチキスが打針され、続いてその真ん中をナイフで切離するようなイメージで、血管や組織の切離・縫合が行われるそうです。理想的なステイプルを実現するために、あらかじめ組織を平行に馴染ませ、ステイプルに適した高さにする先行圧縮という技術が用いられていると教えていただきました。実習では、自動縫合器と自動吻合器を用いて、組織に見立てた透明のシリコンシートに理想的なステイプルとされるきれいな「B」型が形成されるところを見せていただきました。
エナジーデバイスについては、アクティブブレードの器械的振動により凝固と切離を同時に行う超音波凝固デバイスと、電気を流すことで発生するジュール熱により作用するアドバンスバイポーラをご紹介いただきました。実習では、両方のエナジーデバイスを用いて、組織に見立てた精肉を切離していただき、その切離面の状態や組織断端の色調変化などを観察し、デバイス毎の特性についても理解することができました。また、水中でアクティブブレードを振動させ、組織を切離することができるというそのエネルギーの大きさを視覚化して学ぶことができました。

2限目:人工呼吸器
コヴィディエンジャパン株式会社

はじめに、呼吸についての解剖生理や人工呼吸器の原理等、人工呼吸器を理解する上で必要な基礎的知識について学びました。続いて、日本における人工呼吸器に関する法律や、市場規模、集中治療室の現状等、臨床現場のニーズとの関連について知ることができました。
実習では、はじめに人工呼吸器の代表的な3つの換気モードの特徴について、人工呼吸器のディスプレイに表示されるグラフィック波形の見方も含めて解説していただき、続いて人工肺シミュレータを用いて、人工呼吸器と自発呼吸との非同調(ファイティング)や、無呼吸に対するバックアップ換気の作動などの場面を再現していただきました。また、挿管チューブと呼ばれる管を気管に挿入せずに、マスクやネーザルカニューラ(新型コロナウイルス感染症で話題となった、高流量酸素を鼻から流す、ハイフローセラピー)を用いた非侵襲の酸素療法についてもご紹介いただきました。

3限目:機能検査オキシメータ
浜松ホトニクス株式会社

Module1の集中治療の講義で坂口先生から紹介されたオキシメータについて学びました。体外循環を用いた心臓外科手術や脳卒中患者のためのICUであるSCU(Stroke Care Unit)などで、脳内の酸素状態をモニタリングするために用いられるデバイスです。NIRS:近赤外分光法と呼ばれる技術を用いた測定原理の詳細や、開発における苦労・工夫された点など、エンジニアのお立場から詳細にご講義いただきました。また、血中酸素飽和度をモニタリングする機器として広く普及しているパルスオキシメータとの違いについてもご説明いただきました。実習では、酸素消費量上昇を再現するため、上肢にセンサーを装着した状態で運動を行い、徐々に変化していくパラメータについて見ていきました。また、脳の動脈が詰まった状態を想定し、上腕動脈の用手圧迫による血流の低下と圧迫解除による再灌流のタイミングで、パラメータが大きく変化する様子を見ることができました。

4限目:超音波診断装置
株式会社フィリップス・ジャパン

超音波検査の基礎として、非侵襲性やリアルタイム性といった超音波検査の特徴や、探触子の構造・種類についてご説明いただきました。その後、心臓、血管、腹部などの各部位に用いる3Dエコーについて、さらにAnatomical Intelligenceと呼ばれる自動解析技術についてもご紹介いただきました。実習では、被験者の心エコーを描出したのち、左室・左房、そして右室の3D画像とボリューム測定の結果が、ワンボタンですぐに表示される様子を見せていただきました。従来の方法では、測定者が手動でボリューム測定の範囲を設定する必要があり、測定時間の長さや検者間誤差の課題がありましたが、システムの進歩によりこれが解消されつつあることを知りました。TrueVueと呼ばれる画像上の光源をタッチパネルで自由に動かすことができる技術により、弁の反対側など見たい場所から、立体的で奥行き感のある画像を瞬時に見られるようになったこともわかりました。この技術を使った画像をみていると、まるで実物を手に取って動かしているかのような感覚になりました。

5限目:分娩監視装置・胎児振動刺激装置・ドプラ胎児診断装置
トーイツ株式会社

今年新たに設けられた「周産期デバイス特集」でした。Modue1の産婦人科の講義で木村先生からご講義があった分娩監視について学びました。はじめに、CTG(Cardiotocogram:胎児心拍数陣痛図)を記録する分娩監視装置について、その開発の歴史と測定原理についてご講義いただきました。分娩監視装置は胎児心拍値と子宮収縮の状態をモニタリングするだけでなく、妊婦の酸素飽和度、血圧や胎動などの情報も記録が可能であり、またそれら個々の分娩監視装置から得られた情報をセントラルモニタに送ることで、複数の妊婦のCTGを集中的に監視するシステムも構築されているとのことでした。実習では、分娩監視装置に加え、胎児の心音を聴取できるドプラ胎児診断装置や、分娩に至る前の段階で胎児の状態を観察するNST(Non-Stress Test)と呼ばれる検査において、胎児の覚醒を促すために使用される胎児振動刺激装置についてもご紹介いただきました。写真は木村先生の講義でも登場した胎児心電図モニタリングに使用される児頭電極です。

6限目:黄疸計
コニカミノルタジャパン株式会社

はじめに、赤ちゃんの80%が発症するという新生児黄疸についての知識や、黄疸計を開発するに至った経緯、黄疸計の測定原理についてご講義いただきました。(経皮)黄疸計の登場により、黄疸のスクリーニング検査の目的で新生児に針を刺すという侵襲的な処置をする必要がほとんどなくなったということ、そして、スクリーニング検査を行うことにより、重度高ビリルビン血症(いわゆる核黄疸)の発生率を大幅に減少させることができたということを知りました。核黄疸は重篤な神経系の後遺症の原因となったり、最悪は死に至る恐ろしい病気です。これらを早期発見して治療につなげることは、すべての国の人にとって有益であると感じました。
実習では新生児模型を用いての測定の様子を見ながら学びました。手技は非常に簡便であり、黄疸計の先端が模型の胸部に触れた瞬間に測定が完了するというスピードにも驚きました。国内シェアは極めて高く、グローバルでのシェアも大きい日本が誇るデバイスです。パルスオキシメータ、機能検査オキシメーターもそうでしたが、このデバイスも特定の光の波長を分析することで情報を得るデバイスであることがわかりました。

7限目:保育器(クベース)・光線治療器
アトムメディカル株式会社

新生児が正常に発育できるための環境づくりを行う機器が保育器であり、求められる基本性能としては「保温」「加湿」「酸素」「感染防止」「観察」の5つが挙げられるとのことでした。ご講義では、新生児の生理学的特徴を踏まえながら、各性能を実現する技術についてご説明いただきました。また近年は、新生児への光や音による刺激(ストレス)を軽減することも求められるようになってきており、従来の5つに加え「静音環境」という点でも改良が重ねられているとのことでした。今回の実習では、帝王切開術による出生において、保育器の準備から手術室へのお迎え、NICUへの搬送と入室という一連の流れを順番に再現しながら学びました。ほぼ無音でフードが開閉する様子や、ダンパーによって処置窓がゆっくり倒れるため振動や衝撃が保育器に加わらないようになっていることを確認することができました。また、先ほどの講義で登場した新生児黄疸の治療に用いられる光線治療器が内蔵されていることも知りました。こちらは治療機器でありながら、ボタン一つで処置灯としても使用できるという汎用性も備えており、保育器でありながら、この中で検査や治療などさまざまなことが行える、新生児のためのモバイルハウスであると感じました。

次回からはModule4~医療機器開発の実践~が始まります。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

2021.9.11
メディカルデバイスデザインコース2021運営チーム