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【MDD Diary 2022】#13 (2022/09/24)

2022-09-24

本日からModule4 〜医療機器開発の実践〜が始まりました。

機器開発事例としては「新規参入」をテーマとした1日でしたが、製造原価の考え方、治験、商流など、医療機器ならではのリアルな経験談をお伺いすることができました。

1限目 我が国の医療機器開発環境の現況と近未来 
-医工・産学官連携による医療機器のイノベーション戦略-
妙中 義之 先生  国立循環器病研究センター

日本医療研究開発機構(AMED)では医療機器・ヘルスケアプロジェクトとして診断・治療に加え、AI・IoT技術等を融合的に活用して予後・QOLにも資する研究開発を行うことを推進しています。プログラムディレクターの立場から、医療機器開発のエコシステム体制の整備状況や、医工連携イノベーション推進事業により上市された製品数や売り上げ金額の推移、大企業だけでなく中小企業の医療機器製品化支援等、日本における医療機器開発の最新の情報を数多くご紹介いただきました。事業化を成功に導くには、特に試作を始める前の医療現場におけるニーズ・課題の洗い出しや、知財・薬事・保険償還等の調査など事業化の戦略を確実に固めておくことが非常に重要であるとご教授いただきました。

2限目 医療機器開発から販売までの取り組み
~医工連携と参入課題への対応~
保坂 誠 先生  山科精器株式会社

中小企業の医療機器業界への新規参入から上市に至るまでについて、ご経験を踏まえながらご紹介いただきました。新規参入にあたっては、公的支援や産官学連携を活用した開発を行われており、推進の動機付けや資金調達のサポートを得ること、自社製品を開発できることや医師のニーズと自社のシーズをマッチングすることができることなどのメリットが得られるとのことでした。一方で、開発に長期間かかる製品では世の中の技術トレンドが変化することにより販売にまで至らないことも多いそうです。ものづくりやマーケティングは、実際やってみないと分からないことが多く、失敗を繰り返すことが成功に近づくために重要であることを教えていただきました。

3限目 看護の立場から見る医療現場と医療機器
~超高齢時代の病院と認知症ケアの現場から~
大久保 和実 先生  神戸女子大学看護学部看護学科

老人看護、主に認知症看護の分野で認定・専門看護師として勤務してこられた立場から、臨床看護のエピソードや求められる医療機器などについてお話頂きました。健常な方にとっては理解することが難しい認知症患者さんの言動でも、本人にとっては意味のあるものであり、その思いを受け止めて理解しようとする関わりが、患者さんの不安やストレスによる症状を緩和できます。このような認知症患者さんを取り巻く状況と対応などについて、専門的知見を分かりやすく解説していただきました。看護は人と人とのコミュニケーションによって力を発揮できるものであり、その力を最大限に発揮できるようにサポートをしてくれるような医療機器が求められると教えていただきました。

4限目 小児在宅医療のための国産高頻度人工呼吸器
(排痰補助装置)の開発・承認・販売までの軌跡
早川 剛一 先生  株式会社IBS

医療機器業界へ新規参入した中小企業が高頻度人工呼吸器を開発し、上市に至るまでの困難や乗り越えられた経験をご紹介いただきました。数多くの装置メーカーに部品を納入した経験があっても医療機器開発は似て非なるものであったとのことです。中でも一番困難だったのは現場からの要求分析だったとのことです。ステークホルダーの多い医療業界では、職種毎のみならず一人ひとり求めることが異なるため、解決のためには根気よくコンタクトをとり、医師だけでなくそれぞれの現場を総合的に理解することが重要であるとのことでした。早川先生は2020年に要求分析の段階で行き詰った際、本MDDコースを受けられており、そこでもう一度一から学びなおし、製品化までたどり着かれたとお話しいただきました。

5限目 日本発の新しいタイプの外科用止血材の開発と実用化
前田 広景 先生  三洋化成工業株式会社

胸部大動脈置換術等で用いられる止血材の開発について、医療機器業界への新規参入から上市までの道のりをご紹介いただきました。苦労したことについては薬事を挙げられており、どんな薬事業務があるかは分かるが、実際具体的に何をすればよいのかアクションに移すことができないという壁があったことをお話しいただきました。新規参入ながらも、管理が最も難しく臨床試験も必要なクラスⅣのカテゴリーで、かつ新医療機器として市販後調査の義務があるという非常に難易度の高いハードルを超え、時間はかかりながらも粘り強く着実に進めてこられたとのことです。国内で開発、製造され、臨床現場で活躍する製品が、グローバルの強豪に先んじて海外でも承認されており、日本初の優れた技術が世界で貢献していることに誇らしさを感じました。

6限目 医療機器開発プロジェクトにおける事業計画
吉田 智之 先生  小宮コンサルタンツ

医療機器の事業化について、事前に考えておくことや計画策定ポイント、財務会計の基礎、事業化に必要な投資調査、資金調達、Exit戦略の内容をご講義いただきました。ビジネスとして成功するためにはリーダーの志が一番重要であることや、市場の魅力、競争優位性、収益性などについて目指すべき水準などを教えていただきました。また、事業計画に見られる問題点についても具体的な事例をご紹介いただき、どのように計画すべきかの指針を内容構成やチェックリストを用いてご説明いただきました。事業継続・拡大のためには資金調達が必要ですが、近年では上場しなくとも資金や人が集まるようになっているなど、資金調達や出口戦略の環境も変化していることを教えていただきました。事業化戦略については次回のグループワーキングで実践していきます。

次回は「Group Working – Ⅵ 医療機器開発のための事業化戦略」、「医療機器開発と保険償還①、②」について学びます。

メディカルデバイスデザインコース2022運営チーム