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【MDD Diary 2023】#12 (2023/09/16)

2023-09-19

本日はModule3 〜医療機器開発のための機器実習〜最終日~でした。

1限目 経皮的心肺補助システム(PCPS/ECMO)
テルモ株式会社

重症呼吸不全をきたした患者さんの肺機能のサポートや、急性心筋梗塞などで心機能と肺機能の両方をサポートするために用いられる補助循環システムのECMO:エクモ(体外式膜型人工肺)についてご説明いただきました。

ECMOに用いられている遠心ポンプの原理や特徴といった技術的な部分から、適応疾患や管理上の注意点といった臨床的な内容まで、幅広く学びました。実習では、コロナ禍においてよくメディアでも出てくるECMOの仕組みを知ることができました。さらに、ECMOの基本的な操作を始め、脱血不良や気泡混入といった臨床現場で起こり得るトラブルを再現していただき、機器側のリスクマネジメントについても学ぶことができました。

2限目 人工呼吸器
コヴィディエンジャパン株式会社

酸素療法のひとつである人工呼吸器についてご紹介いただきました。

はじめに呼吸についての生理学や人工呼吸器の原理、人工呼吸器を理解する上で必要な基礎的知識について学びました。続いて、日本における人工呼吸器に関する法律や、市場規模、集中治療室の現状等、臨床現場のニーズとの関連についてもご教示頂きました。

実習では、人工呼吸器の代表的な3つの換気モードの特徴について、ディスプレイに表示されるグラフィック波形の見方を含めて解説していただきました。続いて人工肺シミュレータを用いて、人工呼吸器と自発呼吸との非同調(ファイティング)や、無呼吸に対するバックアップ換気の作動を再現していただきました。挿管チューブと呼ばれる管を気管に挿入する場合と、新型コロナウイルス感染症で話題となった、高流量酸素を鼻から流すハイフローセラピー、マスクやネーザルカニューラを用いた非侵襲的な酸素療法の違いについてもご紹介いただきました。

3限目 陰圧創傷治療システム(NPWT)
スミス・アンド・ネフュー株式会社

創傷を密閉し、持続的に陰圧を加えて創傷治癒を促進させる局所陰圧閉鎖療法(NPWT)に用いられる陰圧維持管理装置についてご紹介いただきました。

陰圧を与えると創の収縮補助、細胞の分裂や活性化の促進、血流の増加、加えて細菌・滲出液・スラフ(壊死組織)の除去により炎症が軽減し、治癒が促進されます。これまで創の治療状況のみに注目されていた陰圧維持管理装置でしたが、医療現場のニーズを追求し、患者さんのWell-beingが向上する親しみやすいデザインをデザイナーと共に設計されたそうです。また、創傷治療の可能性を広げる次世代の創傷機器PICOは手のひらサイズの軽量な設計で、外来管理が可能となっています。

実習では、RENASYSやPICOで陰圧を加える様子を見せていただきました。吸引圧は80~100mmHgですが意外と痛みはなく、手全体に付けた場合も、真空パックのように固くなるわけではなくある程度は動かせるそうです。

4限目 医療機関における医療機器の管理
楠本繁崇先生 大阪大学医学部附属病院医療技術部臨床工学部

医療機器を取り扱うスペシャリストである臨床工学技士の視点から、実際の臨床現場での医療機器の管理について、大阪大学医学部附属病院臨床工学部の楠本繁崇先生にご講義頂きました。

臨床工学技士の業務には、人工心肺装置や人工透析機器といった生命維持管理装置のほか医療機器全般に関する操作業務や、院内医療機器の保守点検などがあります。日常点検には始業点検、使用中点検、終業時点検があり、外観や機能に加え、患者状態の確認や消毒、滅菌も行われていました。

医療機器を扱う医療従事者に対して安全使用のための研修を実施することや、インシデント報告から情報収集を行い、改善のための方策を計画することなど、医療機器を管理するだけでなく、多岐にわたる業務が行われていることを知ることができました。

5限目 超音波診断装置
株式会社フィリップス・ジャパン

超音波診断装置について超音波の基礎、3Dエコー、超音波検査の解析の三つに分けてご説明いただきました。

超音波装置はパルス反射法という原理を使ってエコーの画像を描いています。体内情報を知ることができますが、レントゲンやCTのように被爆侵襲はなく、人体に無害な検査であることがメリットになります。3Dエコーはスライス断面を重ね合わせて立体画像にするだけでなく、Anatomical Intelligenceと呼ばれる自動解析技術も付加されていました。エコー検査の課題として検者間誤差がありますが、AIの技術を使用することによって、その弱点を補うことができるようになってきています。

実習では実際に心臓や肝臓にエコーを当てながら、見えている場所や各モードについて、非常に分かりやすくご説明いただきました。

6限目 分娩監視装置・胎児振動刺激装置・ドプラ胎児診断装置
トーイツ株式会社

分娩監視装置、胎児振動刺激装置、ドプラ胎児診断装置について、開発史と原理についてご講義いただきました。

分娩監視は異常を確定診断することではなく、胎児が健康であるかを確認することが目的です。胎児が健康であるかは、胎児の血液循環(心拍数)と母体の陣痛(強度)を観察することで分かります。技術の進歩により、母体の酸素飽和度や血圧、胎動についても記録することができるようになり、母児を総合的に観察できるようになっていました。

実習では、分娩監視装置の他、胎児の状態を観察する検査(NST: Non-Stress Test)において、振動で赤ちゃんを覚醒させるための胎児振動刺激装置、母体の心音や胎動で分かりづらかった胎児の心音を正確に聴取できるドプラ胎児診断装置についても見せていただきました。

7限目 ポータブル超音波機器
GEヘルスケアジャパン株式会社

場所を問わずどこでも持ち運びができるポータブル超音波機器についてご紹介いただきました。

技術の進歩により、手のひらサイズの機器と広く流通しているスマートフォンを用いて超音波検査を行えるようになっています。必要な機能や超音波画像のクオリティはそのままに、小型で無線であり、かつ価格も手ごろなため、特に在宅診療の現場において役立てられています。開発者であり医師でもあるStephan先生からのメッセージムービーもいただき、ポータブル超音波機器が完成するまでの正確なニーズ探索や細やかな問題点の収集、考え方など、開発に至るまでの背景と今後のビジョンについて教えていただくことができました。

 特に少ない資源で正確な診療が求められる在宅の現場において、聴診器のように使用される重要な医療機器になることが期待されます。

8限目 義肢装具
川村義肢株式会社

義肢と装具について、歴史や義肢・装具の種類、近年の技術についてご教授いただきました。

義肢といっても用途は様々で、日常生活用・作業用・スポーツ用のものがあり、関節部分の進歩によって、義肢を着用した場合でも通常の足と変わらず歩行することが可能になっています。装具とは四肢・体幹の機能障害の軽減を目的として使用する補助器具のことです。ケガの治療や手術後のリハビリのために使われます。

実習では従来の義手と最新の義手の違いを見せていただきましたが、ただ物をつかむだけでなく5本の指すべてが動き、小さなものから大きなものまでを電子制御によって、より人間の手に近い形で動かせるように改良されており大変驚きました。講義の終わりに、義肢装具業界の今後の展望についてお話を伺いました。エンジニアが提供する高度な設計技術や、AIを利用したデザインの改良など、異業種とのコラボレーションに期待されているとのことです。

次回はいよいよ最後のModule4が始まります。

ビジネスとしてのアウトプットを目指す医療機器開発を進めるために、企業などで実際に医療機器開発を実践してきた専門家から、自己の経験をもとに成功のポイント、失敗談、危機をどのように乗り越えたかについて学びます。

初日は、「我が国の医療機器開発環境の現況と近未来-医工・産学官連携による医療機器のイノベーション戦略-」、「医療機器開発から販売までの取り組み~医工連携と参入課題への対応~」、「日本発の新しいタイプの外科用止血材の開発と実用化」、「細菌・ウイルスの迅速診断を実現した新規IVD機器の開発」、「国産高頻度人工呼吸器(排痰補助装置)の開発から上市までの軌跡」、「医療機器開発プロジェクトにおける事業計画」について学びます。

メディカルデバイスデザインコース2023運営チーム