MDD Diary 2018 #15 (2018/10/13)
2018-10-13
東京会場のある日本橋周辺です。
コースが開始された2016年からの3年間でも随分様変わりしました。まさに新と旧が同居する街並みになっています。
モジュール4『医療機器開発の実践』3日目は、株式会社プロアシスト 宮田愛子先生、株式会社カワニシホールディングス 前島洋平先生、厚生労働省 古元重和先生、国立病院機構 楠岡英雄先生、大阪大学歯学研究科・株式会社アイキャット 十河基文先生、三洋化成工業株式会社 前田広景先生にご講義いただきました。
宮田先生には「眠りを見える化する脳波センサーの開発と実用化」と題してご講義いただきました。すでに販売実績があった脳波センサを医療機器としての販売するというプロセスについて、当時の課題やそれを現在振り返って気づいたこと等を交えてお話いただきました。医療機器業界参入は決して平坦な道ではなく、時には否定的な意見も言われたとのことでした。そのような状況の中でも医療機器の販売までたどり着いたのは、決して諦めることなく、周りの意見に耳を傾けながら、仲間を増やし走り続けてきたからこそなのだと教えていただきました。また、経営者の理解を得ることや補助金などの予算がつくことも、開発を継続していくために非常に重要な要素であると知りました。
前島先生には「医療機器販売ビジネスの実際」と題してご講義いただきました。医療機器流通機能を果たすことだけにとどまらず、MEDICAL TAKUMI JAPAN という国産医療機器の海外展開促進事業や、海外先端医療機器に関する情報提供事業など非常に多くの活動をされていることを知り驚きました。また、医工連携の専任担当者の設置や現場ニーズを社内で共有して医療機器開発につなげるシステムの構築等、商社でありながら医工連携にも積極的に取り組まれておられるとのことでした。
医療機器販売商社の視点でのお話は、これまでの講義にはなかったものだったので大変興味深く聞かせていただきました。質疑応答の際に出ていた、『医療機関とメーカーの間にあって、いかに利益をあげていくのか』についてのお話はまたいつか詳しくきいてみたいと思いました。
古元先生には1.医療技術を医療保険でどう評価するのが妥当か、2.これからの日本-選ばれる医療機器とは-、3.イノベーションの評価について-エビデンスの重要性-という切り口で解説いただきました。医療保険での評価について、ロボット手術 VS 既存の鏡視下手術、粒子線治療(重粒子線/陽子線)VS 既存の放射線治療を例に、費用対効果評価、すなわち医療保険から拠出される費用と臨床上の効果(患者さんが受けるメリット)とのバランスに着目した評価方法についてご説明いただきました。開発側としては、開発に費やした費用を何とか回収したいところですが、評価が高すぎると医療保険財政を圧迫し、場合によっては新しい機器が患者さんの元に届くのが遅れることにもつながるかもしれません。一方で、評価が低くなり過ぎると、新しい機器開発のモチベーションを下げてしまうリスクもあります。家電製品のような一般の製品であれば、その価格は市場評価で決まりますが、保険償還対象の医療機器は公定価格であるため、このバランスをどうとるかが非常に難しいところです。講義の中では具体的な事例について、これからこの費用を負担していかなければならない若い世代の受講生の意見を聞くシーンもありました。医療技術をどう評価するのが妥当かについては、社会保険方式を採用する日本、そして税方式を採用するイギリスとの比較、さらにそれ以外の国々の制度も例に出して解説いただきました。これまでは自分たちが開発する製品の価値がどう評価されるかにのみ目が行きがちでしたが、ひとりの国民としてあらためてこれからの日本の医療がどうあるべきかを考えさせられました。
楠岡先生には「医療機器開発と臨床研究法」と題して、2018年4月に施行された臨床研究法についてご講義いただきました。
臨床研究法が、これまであった疫学研究と臨床研究の2つの指針をまとめる形で作られたことを踏まえて、従来からの変更点(法律でいう臨床研究の範囲、臨床研究実施における研究責任者の位置付け、倫理審査委員会の認定制等)を中心にご説明いただきました。また講義の後半には、医療機器にかかわる事項について、『臨床研究法の施行等に関するQ&A』をもとに要点を端的にご講義いただきとても勉強になりました。法律の文章の解釈は非常に難しく敬遠しがちでしたが、今回のご講義をお聞きしたことで、機器開発において避けては通れない制度を理解するきっかけをつかめたように感じました。
十河先生には「匠ではない歯科臨床医の大学発ベンチャー起業と事業化、その苦節15年~特許、そしてソフトの薬機申請、CT、ポータブルX線、CAD/CAM歯冠への展開~」と題してご講義いただきました。歯科医として臨床で感じたニーズを具現化するために、自らベンチャーを立ち上げ製品化まで進んでこられた先生のお話は、楽しくまた非常に多くのことを学ばせていただきました。分析の甘さや特許取得への認識の薄さなど『大学人あるある』とご紹介いただいた点は、多くの臨床家や研究者が当てはまることであり大変勉強になりました。また、その『あるある』を根気強く支えたコーディネーターの存在がいたことをお聞きして、何年間にも渡って多くの課題を乗り越えていくためには、理解し補完しあえる仲間が必要なのだと思いました。
前田先生には「日本発、新しいタイプの外科用止血材の開発と実用化」と題してご講義いただきました。大動脈手術という非常にハイリスクで難易度の高い領域に用い、かつ体内に留置するタイプの医療機器の承認を取得する、それも異業種から参入!というのは本当に大変な道のりだったのだろうと思いました。薬事関連業務でご苦労された点など、先生が歩んでこられた25年の開発と実用化の歴史から学ばせていただくことは非常に多く、講義後の質疑応答でも開発から薬事承認、保険償還に至るまでのプロセスについての質問が止まりませんでした。
MDD2018レギュラープログラムもいよいよ来週が最終回になります。
医療機器の世界も徐々にハードからソフトへの時代に入りつつある現状を受け、クラウドを利用した医療情報共有、IoTを駆使したモニタリング、PHR(Personal Health Record 生涯型電子カルテ)などをテーマとした事例について集中的に学びます。
今年も講義終了後にはファイアサイドセミナー【特別講義】が開催されます。
今回は、筑波大学システム情報系 教授 サイバニクス研究センター 研究統括でCYBERDYNE株式会社 代表取締役社長/CEO の山海嘉之先生から「革新的サイバニックシステムによる最先端医療イノベーションの夜明け」と題してご講演いただく予定になっております。ぜひたくさんのご参加をお待ちしております!
MDD2018 ファイアサイドセミナー【特別講義】
MDDコースは6月にはじまり、あつ〜い夏をこえ、もう10月。雲が高く空もめっきり秋になりました。
2018.10.13
MDDコース2期生 チコ(ChiCo)