【MDD Diary 2021】#11 (2021/09/04)
2021-09-5
本日はModule3 〜医療機器開発のための機器実習〜第3日目~でした。https://mei.osaka-u.ac.jp/mdd/
1限目は経皮的心肺補助システム(PCPS/ECMO)(テルモ株式会社)、2-3限目は内視鏡機器と鏡視下手術機器(オリンパスメディカルサイエンス販売株式会社)、4-5限目はペースメーカー・ICD・CRTD・プログラマーとリードレスペースメーカー(日本メドトロニック株式会社)、6限目は着用型自動除細動器(WCD)(旭化成ゾールメディカル株式会社)、7限目は義肢装具(川村義肢株式会社)について学びました。
コロナ禍で急に「エクモ」という単語を耳にする機会が多くなりましたが、そもそも「エクモ」とは何かを理解するセッションでした。体外式膜型人工肺(ECMO:エクモ)に用いられている遠心ポンプの原理や特徴といった技術的な部分から、ECMOの適応疾患や管理上の注意点といった臨床的な内容まで、幅広く学びました。実習では、ECMO導入時に実施するプライミングやカニュレーションの手技に加え、脱血不良や気泡混入といった臨床現場で起こり得るトラブルを再現し、エア混入時に患者さんの血管に空気が入っていくのを防ぐコーストモードへの自動移行など、機器側のリスクマネジメントについても学ぶことができました。質疑応答セッションでは、開発プロジェクトを率いられた押山広明先生にもご登壇いただきました。
ご講義では、ハイビジョン画質を実現した先端外径がわずか約5㎜の経鼻内視鏡や、Module1の消化器内科の講義で教えていただいたNBI(Narrow Band Imaging):狭帯域光観察と呼ばれる診断技術についてなど幅広くご説明いただきました。実習では、胃のモデルを用いて、スネアによるEMR(Endoscopic Mucosal Resection:内視鏡的粘膜切除術)を再現していただき、内視鏡スコープから得られる高解像度画像や、鉗子口から処置具を挿入していく様子などを見ることができました。ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は、これまで外科的手術しか選択肢がなかった分野に「切らずに治す」という概念を確立させた日本が世界に誇る手術方法です。カメラから胃カメラへ、そしてファイバースコープから内視鏡手術へと発展してきた日本初の医療機器、そして手術手法がこれからも世界で活躍することを期待します。
内視鏡下手術の歴史や適応疾患から、3D内視鏡に用いられている撮影方法の原理、IR(赤外光)観察を実現する機構などについて教えていただきました。実習では、実際のスコープを用いて、3Dを実現するために右目・左目の役割をになうCCDカメラとライトが2つずつ搭載されているのこと、同様にビデオシステムや光源装置にも左右それぞれに分かれていることを学びました。手術場面の再現では、シミュレータを用いて外科医がトロッカー(ビデオスコープや鉗子を体腔内へ挿入するために用いるもの)を挿入するところから、3D内視鏡下での縫合の様子を見ることができました。ロボット手術が台頭しつつありますが、今後この分野がどのように発展していくのかが楽しみです。ロボット手術については、10月のModule4で学びたいと思います。
ペースメーカ開発の歴史を辿りながら、デバイスの進化について学び、続いて植込み型デバイスである、ペースメーカ、CRT-P(両室ペースメーカ)、ICD(植込み型除細動器)、CRT-D(除細動器機能付き両室ペースメーカ)の特徴、それぞれの違いについて教えていただきました。近年登場した条件付きMRI対応ペースメーカや、Insertable Cardiac Monitor:ICMと呼ばれる植込み型心臓モニタについてもご紹介いただきました。実習では、ペースメーカ植込み術の一部分である、ジェネレータ(電池)の皮下への植込み→リードとの接続→縫合までの一連の手技を見ることができました。さらに植込み後、ペースメーカー外来にて作動確認や設定変更を体外から行う様子を順に学びました。いわゆるマグネットと呼ばれるペースメーカーにアクセスするためのインターフェースを使用しながら、ペースメーカー内の調整を行うためのプログラマーを操作するプロセスを学びました。新旧比較のシーンでは、最新のシステムにてBluetoothで患者さんの体内のペースメーカーへのアクセスを制御し、タブレットから直接ペースメーカーにアクセスするところをみることができました。ここでも、ハードウェアからソフトウェアへのシフトが起こっているようです。
続いて、2016年に登場したリードレスペースメーカについてご紹介いただきました。Module1の循環器内科の講義で坂田先生が紹介された、ペースメーカー感染後のリード抜去が必要なくなる画期的なデバイスです。わずか1㏄のカプセルの中に電気回路、電池、電極など、必要な機能が搭載されているとのことでした。この形状を実現できたことで、リード断線やポケット(ジェネレータを収納するために皮下に作成する)感染など、ペースメーカ植込みによる合併症を防ぎ、患者さんのQOL向上が大いに期待できるといえます。実習では、デリバリーカテーテルを用いてリードレスペースメーカを心臓内に運び、留置する様子をシミュレータを用いて再現しながら学びました。リードレスペースメーカーは文字通りリード線がなく、これまでメスで切って植え込んでいたところを、カテーテルで留置するというパラダイムシフトをもたらしたデバイスですが、心室側に留置するため従来型(リードあり)のペースメーカーでは可能な心房との同期ができないことが課題でした。既にこの課題を克服するシステムが実現されており(2020年FDA clearance)、今後さらなる進化を遂げていくと思われます。
着用型除細動器のシステムや機能、適応患者やデータマネジメント、そして診療報酬に関して学ぶことができました。この前の講義で学んだ植え込みとはまったく異なる方式で、Module2の西内先生のデザインコンセプトの講義で学んだ、「現場ニーズに対する解は一つではなく、設計思想の違いにより最終的なアウトプットである製品にも違いを生み出せる」という言葉を思い出しました。実習では、着用する前の機器のセットアップ、除細動モードが作動した際のアラーム、アナウンス、また患者さんに意識があった場合に自らコントローラにあるレスポンスボタンでショックを停止する流れを見ながら学びました。セットアップ時には、数字や色で順番や接続箇所を識別しやすいような工夫がされている点、レスポンスボタンが押しやすい一方で誤作動を防ぐ形状になっている点から、日常生活において患者さん自身が操作する機器であるという特性に対する配慮が多くみられました。ユーザビリティエンジニアリングの講義は、このためにあったと感じました。
パラリンピックで話題の義肢、装具ですが、今回はその種類や使用場面、それぞれの特徴、採型の際にデジタルスキャンや3Dプリンタを用いることで作業が大幅に短縮できるようになってきたことを知りました。一人ひとりの利用者に合わせる義肢装具士の細やかな配慮や技術をどこまでデジタル化できるかは今後の課題になりそうですが、低コストを実現できることで義肢装具を必要とする多くの人が恩恵を享受できるのであれば非常にすばらしいと感じました。実習では、筋電義手を用いて物を把持する様子や、書字や握手といった動作を電子制御された最新の義手を用いて行う様子も見せていただきました。義足については、膝折れを防止するために開発された7軸の関節機構を持つ義足をご紹介いただき、模擬義足を用いて歩行する様子を見ることができました。アプリで操作できる最新の義手や義足は、海外製のものが多いのが現状ですが、生体そっくりにするビジュアルの技術に関しては日本が先行していると感じました。
来週は、自動吻合器・縫合器・エナジーデバイス、人工呼吸器、機能検査オキシメータ、超音波診断装置、分娩監視装置・胎児振動刺激装置・ドプラ胎児診断装置、黄疸計、保育器(クベース)・光線治療器について学びます。
2021.9.4
メディカルデバイスデザインコース2021運営チーム